町を歩けばどこかで必ず自分の顧客に会う

入社してから10年ほどはそういった活動が続いた。しかし、時が経つと、個人情報の規制も厳しくなり市役所や企業のオフィスへ入っていくことができなくなり、また、定年後も働く方が増え、個人の家を訪ねても、不在の家が多くなってきた。すると、営業手法も変わらざるをえなくなる。

ちなみに阿南市の人口は約7万3000人。世帯数は約3万1000。多田はこれまでに3000台以上を売っている。つまり阿南市の世帯のうち、10分の1は多田から車を買っている。そして、彼の管理ユーザーの数は800人。町を歩いていれば必ずどこかで自分の顧客に会うということになる。彼自身、地元では酔っ払って歩くこともできないだろう。日常を律して生活しないと、地域密着で車を売ることはできない。

「阿南市は小さな町ですから、お客さまは中小企業、商店、一般の人で、訪問はみんながおられるような時間に行きます。商店は昼で、個人の家は夕方。ただし、それもずいぶん減りましたけれど。僕はこの会社に入る前に在庫処分の衣料品販売を行っていたでしょう。そのおかげで、自動車の販売で個人宅を訪問するのはそれほど苦にならなかった。僕が売れたのはずうずうしく訪ねていくことができるという点があったからじゃないですか。だから、そこそこ売れました」(多田)

営業マン個人ではなく組織で売る形へ

トヨタカローラ徳島の竹内浩人社長

「それともうひとつ。自動車修理店に営業に行ったんですわ。あの頃、車のセールスマンというのは、午前中はもう、喫茶店でくすぶって、ワイワイ話をする。午後になってやっと訪問するといった人がほとんどだった。しかし、僕は先輩に恵まれて、その人から教わった。

『喫茶店へ入ってお茶でも飲む暇があったら、修理屋さんへ行け』と。

それで、自動車修理店へ飛び込んで、名刺を渡して、『車を欲しいというお客さまがいたら紹介してください』と。

むろん、売れたら修理工場も収入になるわけですが」(多田)

しかし、その頃から比べると販売の現場は変わった。営業マン個人個人が売るのではなく、組織として売る形になってきた。しかも、訪問よりも、店舗に来てもらって話をするのが主だ。そして、販売店は新車のマージンに頼るだけでなく、入庫してくる車の修理、サービス、中古車販売、バリューチェーンと呼ばれる車のローンや保険の販売にも力を入れるようになった。現在、カローラ徳島の利益で言えば、各ジャンルの配分は次のようになっている。同社代表取締役社長の竹内浩人が「秘密でもなんでもありませんから」と淡々と教えてくれた。

「新車販売の利益は5億3000万円。中古車の利益が2億1000万円。メンテナンスの利益が9億8000万円。保険とローンの手数料が合わせて3億円です」