建物の中には焙煎工場も併設され、複数の焙煎機が設置。張り巡らされたパイプからは焙煎された豆が流れてくる。各階にテーマを掲げ、さまざまな訴求がされている。

メニューは1000円前後が中心なので、ドリンクとフードとスイーツを頼むと3000円ぐらいかかる。「カフェの食事」としては高いが、「テーマパークでの食事」と思えば、納得価格に思えてしまう。好き嫌いはあるだろうが、こうした訴求は競合を圧倒する。

独特のサイズ名がもたらすミステリアス性

ここでいう「上から目線」はネガティブな表現ではなく、消費者が憧れ、少し見上げるという意味で使った。スタバが新たな提案をする時、多くは上から目線なのだ。

例えばドリンクのサイズ名がそうだ。「ショート」(容量は約240ミリリットル)→「トール」(同約350ミリリットル)→「グランデ」(同約470ミリリットル)→「ベンティ」(同約590ミリリットル)」という呼び方は、日本上陸後23年たっても、戸惑う消費者が多い。それでも決して「S・M・L(サイズ)」には変えない。

これを各店のパートナー(同社は全従業員をこう呼ぶ)が臨機応変に行い、横から目線で説明する。例えば容器を並べて「これがショートで、この大きさがトールです」と話す時もあれば、地方の店では「大・中・小です」と、戸惑うお客にも分かりやすく伝える。

「ロースタリー」限定で発売している「ゴールデン スカイ ブラックティーラテ」=著者撮影

「ロースタリー」のようななじみのない業態は、さらに伝える工夫が必要だ。会社として開業までのパートナー教育も行うが、アルバイトでも個々のスタッフの当事者意識は高い。

カタカナ用語を駆使して、少しミステリアス性を持たせる。そうした「ブランドとしての一線」を守る一方で、通訳者(店舗パートナー)が「気どっている感」をなじませるのだ。

スターバック社内では「コーヒービジネスではなくピープルビジネス」という言葉が浸透している。ここでいう「ピープル」にはいろんな意味があり、人材力もあるだろう。

地域の景観に寄り添う「横から目線」の戦略

一方、「スタアバックス珈琲」の訴求は、日本文化を尊重する「横から目線」だ。

6月上旬、九州出張時に足を伸ばし、「福岡大濠公園店」(福岡県福岡市)で「プリンアラモード フラペチーノ」を試食。たまたま隣り合わせた女性2人組に聞いてみた。

「スタバが人気の秘密ですか? SNS映えするからじゃないですか。よく来ますけど、最近ハマっているのは(ここにはない)タピオカミルクティーですけどね」(大学2年生)

1999年生まれのこの女性は、スターバックス日本進出後に生まれた世代。現在、若い女性に圧倒的な人気のタピオカミルクティー店を好みつつ、スタバも利用するのが現代的な消費者像に思えた。

日本文化の尊重への代表的事例は、「リージョナル ランドマークストア」と呼ぶ、地域の景観に合った店だろう。

別の機会に詳述したいが、同業態1号店の「鎌倉御成町店」(2005年開業。神奈川県鎌倉市)を皮切りに、「富山環水公園店」(同2008年。富山県富山市)など各地に広がる。このシリーズではないが、大濠公園の店も周辺の景観にマッチした外観だ。