中国本土政権は香港に隣接する広東省から監視

2014年には香港政府トップの行政長官を民主的選挙で選べるよう求め、学生たちによる79日間にわたる座り込み(いわゆる雨傘運動)が起きた。だが、参加した民主派市民と学生との間の考え方の相違から内部分裂を起こして衰退し、最後は香港政府の強制排除で運動の火が消された。

逃亡犯条例改正案の反対をきっかけに盛り上がった今回のデモは、民主派市民と学生との連携がうまく取れているという。

「天安門事件のような武力制圧はできない」と前述したが、中国はいまの香港の状態を苦々しく感じている。

たとえば、習近平(シー・チンピン)国家主席は6月上旬から香港に隣接する広東省に中央国家安全委員会による司令部を設け、香港政府に指示を出している。逃亡犯条例改正で抗議デモが起きると判断したからだ。

しかし、そのデモが200万人にも及ぶ大規模になるとは、習政権は予想していなかったようだ。

「中国本土の民主化よりも、香港の民主化が先だ」

6月28日と29日には大阪で主要20カ国・地域(G20)首脳会議が開かれる。習氏も来日し、アメリカのトランプ大統領と顔を合わせる。アメリカと激しく対立し、関税引き上げという貿易戦争を続ける習政権としては、香港の抗議デモを駆け引きの道具として利用されるのを避けたいというのが本心だろう。

香港市民は、「中国本土の住民も、香港市民も同じ中国人」との考えから、中国全体の民主化を主張してきた。

ところが、香港では2014年の雨傘運動の失敗を契機に、若者を中心に反中感情が強まり、「自分たちは香港人」との考え方が広がった。その結果、「中国本土の民主化よりも、香港の民主化が先だ」と訴える学生が多くなっている。自由な資本主義の下で経済活動を推し進めてきた香港らしい思想である。

中国本土は、1989年6月の天安門事件で政府の弾圧に反発するエネルギーが「反革命暴乱」とみなされて封じ込まれ、その後、歪んだニセモノの経済発展を遂げた。そのあたりのことは、6月12日付の「香港デモで懸念される“天安門事件”の再来」で触れた。

中国本土は異常な言論統制が敷かれ、真の豊かさがない。その点、香港はまだ自由が許されている。中国の民主化は香港から巻き起こってくるに違いない、と沙鴎一歩は考える。天安門事件で封じ込められたエネルギーが香港で爆発する。