香港における「当局と外国メディアとの対立」
「香港の自由が失われる」と日本語でも支持を訴えている民主活動家、周庭氏(アグネス・チョウ、23)らが逮捕された8月10日、香港では驚くべきことが起きていた。日本経済新聞の香港支局に警察当局の捜査員3人が令状を持って訪れていたのだ。
この日、周氏のほか、反中を訴える新聞「りんご日報(アップル・デイリー)創設者の黎智英氏(ジミー・ライ、71)とその息子ら計10人が当局によって逮捕された。こうした当局の動きはいずれも6月30日に施行された香港国家安全維持法(国安法)違反の疑いによるものとされるが、外国メディアの出先機関にまで捜査の手が伸びている事態は尋常ではない。
今回は、香港における「当局と外国メディアとの対立」について検討してみることとしよう。
「デモシスト」の意見広告を問題視
日経香港支局への捜査員訪問を報じたのは、フランスの通信社AFPの記事だ。この記事は、匿名の人物がAFPに対して語った話として伝えられている。捜査員3人は8月10日の周氏逮捕の数時間前に香港島にある日経の香港支局に令状を持って訪れ、同紙がおよそ1年前に周氏らが所属していた民主派団体「香港衆志(デモシスト)」が国際的な支援を求める意見広告を載せたことについて、事情聴取を行なったという。
日経新聞広報室は「法的な理由でコメントを差し控える」としている(日本経済新聞、9月1日)。一方、国安法違反容疑で保釈中の周庭氏は9月1日に地元警察へ出頭。取り調べ後の取材に応じた際、警察が日経香港支局を捜査したことに言及した。
取り調べでは、2019年にデモシストが日経紙面に掲載した意見広告を証拠品として警察から見せられたという。AFPは「意見広告は世界の主要紙に掲載され、その費用はクラウドファウンディングにより集められたもの」と伝えており、これ自体は疑わしいものとは思えない。
もし、AFP報道や周氏の発言が正しいとしたら、こうした香港当局による捜査は、国安法に綴られた「本法律の施行後の行為は、法律規定によって処罰される(第39条、つまり、法の効力発効前の事案には遡及しない)」とする条文に明らかに抵触する。なぜなら捜査の理由が「1年前の広告の掲載が問題」としているからだ。
逮捕から24時間後に保釈された周氏が「何が理由で逮捕されたのかよく分からない」と言っている状況と類似性がある、ともいえようか。