周氏は地元警察による取り調べ後の取材で「国安法は香港メディアに影響を与えているだけでなく、香港で活動している外国メディアにとっても脅しとなっている。つまり、国安法は、報道の自由を破壊する政治の『武器』として使われている」と危機感を募らせており、NYTに追随する外国メディアが今後増える可能性もある。

8月10日に逮捕された黎氏は、国安法の導入に先立ち、民主派、建制派(親中派)の双方が「同法が導入されたら黎氏が逮捕される可能性は非常に高い」と危惧していた。これに対し同氏はAFPおよびドイツの公営放送「ドイチェヴェレ」(DW)の取材に対し、「牢屋に入れられることになっても後悔はしない。香港を離れることはせず、(自由のために)最後の1日まで戦う」と明言した。

日本メディアが中国批判をできない理由

こうした状況を追ってみると、「香港におけるメディアの自由」は確実に狭まっているとみるべきだろう。日経新聞香港支局への捜査員訪問は、報道内容の制限を求められたケースではないが、「なんらかの圧力が今後かかるかも」という「重し」と感じる記者がいるかもしれない。

ところで日本と中国(本土)政府との間には、「日中両国政府間の記者交換に関する交換公文」というものが取り交わされている。これは日中両国間における記者の相互常駐に関するもので、日中国交正常化以前の1964年に結ばれた「日中双方の新聞記者交換に関するメモ」を踏襲している。

具体的には、政治三原則(※)と政経不可分の原則に基づいて記者交換を実施、日本のメディア各社は記者を中国に派遣するに当たり、「中国の意に反する報道を行わないことを約束」するものとなっている。

※政治三原則:1.日本政府は中国を敵視してはならない 2.「二つの中国」をつくる陰謀を弄しない 3.中日両国の正常な関係の回復を妨げない——ことを定めた。

中国に配慮した報道は続くのか

目下のところ、香港は「一国二制度」の下、こうした公文の適用範囲から外れている(はずだ)。ただ、現状のように、外国人記者への締め付けとも言える状況が進む中、中国との間でこうした「約束事」を持つ日本メディアはどう動いてくるだろうか。

香港からの記事を中国本土と同じ基準で伝えようとするのか、それともあくまで香港ならではの独自性を持つ記事を送ろうと努力するのか——。記者への労働ビザが政争の具となる中、日系メディアはどこまで踏ん張れるかが今後の課題となるだろう。

折しも、「中国への忖度」が常に取り沙汰されていた安倍晋三首相が自ら辞職の道を選んだ。中国との適切な関係性の確立を求める声が世界中で高まる中、新しい政権は香港との関係についても確固たる立場を打ち出す必要があるのではないだろうか。

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