こうした動きに対応する法律的根拠があるのかどうか、改めて国安法の条文を確認してみるとこんな記述がある。

駐香港特別行政区国家安全保障局、外交部駐香港特別行政区特派員事務所、香港特別行政区政府は、香港特別行政区内の外国および国際機関の組織を強化するために、在香港の外国、海外NGOや新聞・通信社の管理、サービスについて必要な措置を講じるものとする。(第54条)

香港の英字紙「ザ・スタンダード」など複数のメディアが入境事務処に近い関係者の話として伝えたところによると、外国人記者の労働ビザ発給については、今年6月末に新たにできた「国安セクション」と呼ばれる部署が可否判断を行っているという。これが条文にあるメディアへの「必要な措置」なのだろうか。

新たな部署ができたことで、記者らへのビザ発給が遅れているとされるが、その理由として「記者が最初に労働ビザを申請した際、異なる職種で申告していた」ことが挙げられており、加えて「香港の民主化運動の報道を行っていたとみなされる場合は、ビザの更新手続きに時間がかかる、もしくは更新を認めない」という事例もあると伝えられている。

なお、この「国安セクション」は本来の入境事務処ビル内には当該事務を行う部屋がなく、担当者も「入境事務処の職員機構図には存在しない」とされ、なんらかの別組織が審査に関与していることをうかがわせる。

メディアの香港脱出が始まった

NYTは香港での活動に見切りをつけ、一部のスタッフを除き、ソウルに移転すると公表した。これについて、同紙は、

「香港で中国が施行した、広範囲にわたる新たな治安維持法(国安法)は、私たちの事業とジャーナリズムにその新規則がどう影響するのかをめぐって、多大な不安を生んだ」。スタッフの一部はすでに就労許可を得るのに苦労しており、許可は「中国では困難だったが、(香港では)まず問題にならなかった」(BBC日本語版、7月15日付)と明言している。

外国人記者の活動が狭まっている中、こうした空席を狙って職を得ようとする香港人が今後増えるとは到底思えない。国安法上の規定を鑑みた時、積極的に外国メディアの香港支局等で働こうとはしないだろう。旧英国領だった香港には優秀な英語の使い手も多いが、もしそんな人なら、どこか別の外国に職を求めて、そこから「真実」を伝えようと努力することだろう。