トランプ大統領は点数稼ぎのために経済も犠牲にする

メキシコへの制裁関税が本当に発動されていたなら、米国の生産活動や個人の消費には無視できない影響があっただろう。国レベルで見た時、メキシコは中国に次ぐ対米輸出国だ。2019年1~3月期、中国の対米製品輸出は、制裁関税の影響により伸び悩んだ。一方、米国の個人消費などは相応に良好だ。需要を満たすために米国はメキシコからのモノの輸入を増やした。

見方を変えれば、トランプ大統領は自らの支持獲得(点数稼ぎ)のためなら、経済をも犠牲にしかねない。それは米国だけでなく、世界経済全体にとって無視できないリスク要因だ。5月31日、米国の政治に対する懸念が急上昇し、投資家はドルを売った。ドルは円に対して前日比1%超下落し(ドル安・円高)、円以外の主要通貨に対してもドルは軟調だった。一方、ドルの減価を受けて金価格は前日から1%超上昇した。

金は投資資金の「ラストリゾート」

価値が安定していることに加え、金価格には“質への逃避”に駆られた投資家の心理や、宝飾品などに使うための実需も影響する。

経済環境が悪化すると、投資家は株式や低格付けの債券などを売却し、相対的に価値が安定している資産を保有しようとする。これを“質への逃避”という。米国の政治と経済が安定している場合には、相対的な信用力の高さから米国債への需要が高まる。

もし、米国債への不安が高まると、投資資金は金に流入する。物価が持続的に上昇する“インフレーション(インフレ)”が進んだ際にも、価値が安定している金は有効な投資対象だ。まさに、金は投資資金のラストリゾートだ。

これを確認する良い例として、欧州のソブリン危機がある。

リーマンショック後、ユーロ圏ではギリシャ、アイルランド、ポルトガルが財政危機に陥り、自力での資金調達を断念した。イタリアやスペインの財政不安も急速に高まり、単一通貨ユーロの存続が懸念されたほどだ。