付加価値のある商品づくりを支えるのは、いち早く新カテゴリーをつくり、大手に真似してもらう「弱者の戦い方」があります。これが3つ目の成功のポイントです。
弱者の理論の背景には、彰浩さんのキャリアが大きく影響しています。彰浩さんは地元の高校から東京農業大学を卒業した後、東京コカ・コーラボトリングに就職します。「いずれ飯尾醸造を継ぐと、子供の頃から自然と考えていました。その前に、大手メーカーの内側を見たい、技術営業を学ぼうと思ったんです」(同)。
その経験を持って「お酢屋」を継いだ彰浩さんが、中小企業の経営者として働くなか見出したのは、「大手と真逆のことをすれば、生き残っていける」ということでした。
「大手は模倣の繰り返しでシェアを奪っていきます。たとえば、伊藤園さんの『お~いお茶』をほかの大手メーカーが後追いすることでお茶市場が拡大しましたし、缶コーヒーもUCCが初めて作った商品ですが、今では販売力でコカ・コーラの『ジョージア』がトップシェアになっています」(同)
彰浩さんは「だからこそ中小企業は、大手メーカーに真似される商品を作るべき」と言います。つまり、大手に模倣される商品を作れば、自社のシェアが小さくなったとしても、マーケットそのものが大きくなることで、十分売り上げのある商品になるというわけです。その考え方のもとで開発、発売したのが食材を漬けるだけでピクルスができる「富士ピクル酢」でした。
「ピクル酢は、冷蔵庫に残った野菜をピクルスにすることで廃棄食材を減らす『エコな酢』として社会的な価値をアピールしました。その結果、多くのメディアに取り上げられたんです。つまり、社会性がある商品こそが世の中に伝わるんです。今は、社会的意義を新商品開発の条件にしています」(同)
あるとき、とある大手が、同じコンセプトで似た名前の商品を販売する際に、「ピクル酢」の商標を持つ彰浩さんのもとに「名前を使っていいか」交渉に訪れました。普通なら商標権でフィーを取るビジネスにするところです。しかし、彰浩さんの返事は「どんどんお願いします」と答えたそうです。実際、1年ほど経つと、他社もそのコンセプトを真似た商品を次々と販売しはじめ「ピクル酢」の売り上げも拡大していきました。
「BtoC」の比率は、3%から24%に
そして、最後のポイントが、社員の働く意義を高めるためのユーザーとの接点づくりです。先代までは卸店経由の販売が9割を超えていましたが、彰浩さんは直販の比率を拡大していきます。利益率が上がることはもちろんですが、従業員のモチベーションの向上、そして雇用にも役立っています。