インターネットが普及し始めた頃、情報通でちょっと知恵のある人なら、誰でも「ネット書店」の成長可能性を予見できました。無店舗なので書籍を安く販売できるし、顧客は自宅にいながらいつでもワンクリックで書籍を購入できるからです。そこで、ネット書店のベンチャーが、次々と設立されました。しかし、それらのベンチャーは「低価格」や「利便性」といった同じ土俵での厳しい競争に陥りました。

そうしたなか、「ちょっと待てよ」と考えたのが、ベゾス氏です。「低価格はeコマースの本質ではない」「eコマースは大きな自動販売機ではない」と考え、行き着いたのが、販売データを生かして、膨大な品揃えのなかから商品の選択・購買を支援するインフラをつくることでした。ネットで本を売るのではなく、本のような種類が多いものを消費者が探して見つけて選んで買うという「購買の意思決定インフラ」を売る会社にする決断です。これがほかのeコマースと一線を画すことになりました。そのベゾス氏は、こんな興味深いスピーチをしています。

「今日、私が皆さんにお伝えしたいのは、『才能』と『選択』の違いについてです。『賢さ』は才能ですが、『優しさ』は選択するものなのです。才能を使うのは簡単です。すでに生まれ持っているものですから。けれども、選択するのは難しい。気をつけないと、自分の才能におぼれてしまうこともあります。そうなると才能が、正しい選択をする妨げにもなりかねません」

才能は生まれ持って身に付いているものであり、選択は事後的に自分で判断して行動していくもの。誰しもが一定の才能を持っていて、それをどう使っていくかという独自の価値基準、つまり教養にもとづいて選択していくことが重要だと、ベゾス氏は指摘しているのでしょう。

技術者としてのオリジナリティー

日本の経営者で、自らの教養を戦略的な選択に生かした代表といえば、本田技研工業の創業者である本田宗一郎氏です。本田氏は、高等教育を受けなかったのですが、経験と独学によって深い教養を身に付けました。とりわけ、本田氏がこだわったのが、技術者としてのオリジナリティーでした。

時事通信フォト=写真

本田氏の独自技術の結晶であり、日本の工業製品のなかで最高傑作の1つに数えられるのが、1957年に開発されたオートバイ「スーパーカブ」です。基本構造は変わらぬまま、現在でも販売されているロングセラーで、販売台数は累計1億台を超えて「世界で最も売れたモビリティー製品」です。スーパーカブがこれほど支持されている理由は、「ユーザーの使いやすさ」を徹底的に追求した点にあります。