日本で巻物料理が発展した3つの理由

海苔巻にはじまり、伊達巻、昆布巻、紫蘇巻、鳴門巻、餡巻など、日本には世界でも珍しいほど多彩な巻物料理が存在しています。近年は恵方巻が節分の料理として定着しました。日本でこれほど巻物料理が発展した背景には、3つの理由が考えられます。

第一の理由は、巻物にすることで異なる食材を一体化させることができるからです。たとえば、昆布巻なら昆布の出汁とニシンの旨味が合わさって、おいしさを作り出します。異なる味の食材を一体化させることによって、食材を個別に食べるよりも複雑で深い味わいが演出できるのです。

第二の理由としては、見た目の美しさが挙げられます。巻物のそれぞれの食材は、互いに引き立て合って断面を彩り、美しい渦巻き模様を作り出します。渦巻き模様はどこかユーモラスに感じます。料理店ではもちろん、家庭で巻物を作るときも、作り手は断面の美しさを考えて食材を配置しています。重箱や皿に盛り付けるときも、その断面がよく見えるように工夫します。料理のおいしさをアピールするには、視覚的効果も大切なのです。

高温多湿の悪条件が食の安全意識を高めた

第三の理由は、食材を巻くことによって保存性が高まるからです。巻物を作るときは、巻簾で食材を巻き込み、力をこめてギュッと締めつけます。昆布や植物の葉、竹の皮などを用いる巻物もありますが、いずれも堅く締めつける点は共通しています。これによって形が崩れにくくなるのですが、それだけではありません。食品は酸素に触れると酸化し、腐敗しやすくなりますが、全体を締めると酸素に触れる部分が少なくなって酸化を防げるのです。

日本人は、高温多湿の気候の中で食物の保存に苦労してきましたから、巻物は理に適っているのです。味の調和と見た目の美しさと保存性、この3つに配慮した巻物料理は日本人の食文化を豊かにしてきました。

高温多湿という食品にとっての悪条件は、日本人の食の安全への意識を高めました。先人が安全への意識を徹底していなければ、刺身や寿司が食文化として定着することはなかったでしょう。