「食べられるカビ」麴菌

2006年に日本醸造学会によって日本を代表する菌が選定されました。それが麴菌です。

麹菌には、A.オリゼー(黄麴菌)、A.ソーエ(醤油麴菌)、A.リュウキュウエンシス(黒麴菌)、A.カワチ(白麴菌)などいくつかの種類があります。味噌や醤油、日本酒を作るのに使われているのは、A.オリゼーです。味噌や醤油、日本酒などの発酵食品を作るときに欠かせないもので、麴菌はカビではあるけれど、食べられるカビというのが特徴です。

これらの発酵食品に用いる麴とは、蒸した米などの穀物や豆類に、麴菌を繁殖させたものを言います。和食に欠かせない味噌や醤油といった調味料や日本酒を作るために使う麴菌は、たしかにその働きだけで日本を代表する菌と言えそうです。それに加え、麴菌が国菌となった背景にはもうひとつの理由があります。

A.オリゼーは地球上で日本にしかない

それは、A.オリゼーは、日本にしかない菌だからです。2005年にA.オリゼーのゲノム解析が完了した結果、A.オリゼーはもともと自然界に存在していた菌ではないことがわかりました。日本人が発酵食品を作るために長い時間をかけて、より発酵に適した株を選び、それらを育てて現在の菌になったと考えられるのです。

その根拠は、A.オリゼーにはカビ毒を生成する機能がなくなっていること、一般的なカビは1個の胞子に1個の核を持つのに対して、1個の胞子に複数の核があること、またそのことにより形質が安定していること、発芽が早いこと、酵素を作り出す力が大きいことなどが挙げられます。こうした特徴は、発酵食品を作るためにはとても都合がよく、ここまでの特徴を備えるには、人の手が加わらなければできないと推察できます。

A.オリゼーは、食文化を磨き抜いてきた日本人の叡智の結晶といっても過言ではないでしょう。日本食の伝統技術を語ることは、日本人そのものを語ることになるのです。