全社員から募った、会社の「100年年表」
同社の製品の特徴は、水泳帽のように機能や使い勝手のよさを追求するとともに、関係する製品にラインナップを広げていくことにあります。水着もその1つで、現在では海外大手メーカーとライセンス提携をしています。一方で、水泳が苦手な子どもたちが近年増えていることを知り、これは由々しき問題だと、泳ぐのが苦手な社員が「着るだけで泳げるようになったらいいのに」との思いから研究・開発されたのが、「クロールで25」という商品でした。
資金面でも同社は、東京中小企業投資育成からの出資を受け、15年には経済産業省中小企業庁の「がんばる中小企業・小規模事業者300社」に選出されました。
三瓶社長は、公的助成を受けた理由に関して、「資金的な支援も助かるのですが、それ以上に公的な資金を受けるにあたって、各種書類の記載、記録、スケジュールの管理も、求められる。その基準を満たす会社としての能力を養うとともに、一企業だけでおこなっていたのでは、連携できない機関に協力を仰ぎ、さらなるアイデアや事業発展につなげることが一番の財産になると思ったからなんです」と話してくれた。
最近の例として紹介してくれたのは、新しいスタイルの通学用カバン「ラクサック」。「教科書の量が増え、いままでの通学用ランドセルでは小さく、しかも重いという声が、出てきました。そこで軽い素材を用い、中でモノが動かない間仕切りを入れ、雨が降ったらすぐにカバーできるビニールをつけるなど、私たちのアイデアには少し先のニーズがつまっているのです」と教えてくれた。
同社のホームページには、社員全員から応募を募った「100年 年表」が載っています。20年の東京オリンピック・パラリンピックの年には、「小学生全員が泳げるようになる」、創業80周年を迎える26年には、サグラダファミリアの完成に合わせて「スペインへ社員旅行」とともに、「水泳帽の販売累計数量が一億枚をこえる」、そして46年には「売上高が100億円になる」とあります。この年表1つからも、社会をよりよくしていきたいという気持ちとともに、ニーズを先取りした会社の事業で計画を成し遂げていこうという意欲が強く伝わってきます。
▼商品開発成功のポイント:分業制をとりながらも、一人一人が全工程を把握する
●本社所在地:東京都墨田区緑
●資本金:8500万円
●売上高:49億5千万円(2017年8月期)
●従業員数:58名
●沿革:1946年に乳児用おむつカバー製造業として創業。69年に学校用水泳帽の全国展開を開始。72年には日本水泳連盟の推薦を受けた。80年には老人介護用品の開発を開始。2010年にはイタリアの競泳水着ブランド「Jaked」と日本市場での独占輸入販売契約、ナイキとも水着のライセンス契約を結んでいる。
日本福祉大学客員教授
1955年、大阪府生まれ。80年に東京工業大学大学院を修了し、通商産業省(現・経済産業省)に入省。医療・福祉機器産業室長、中小企業庁技術課長、大臣官房審議官(製造産業局担当)、東京大学大学院教授を経て現職。著書に『共用品という思想』(岩波書店、共著)など。