しかし、トランプ氏もばかではない。事実、トランプ氏は11日に韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領とワシントンで会談したとき、文氏から南北協力事業の再開を求められ、「そのタイミングではない」と拒否している。
恐らくこの文氏の要求は金正恩氏に頼まれてのことだろう。金正恩氏は陰に陽にと“攻撃”をしかけてくる。大したものだ。
金正恩氏は4月末日までにプーチン氏と会談する
「したたかな対応」「海千山千」「大したものだ」などと書いてきたが、ある意味でこうした表現は、褒め言葉である。しかし金正恩氏は思慮分別に欠ける。あの奇妙な髪型と太った顔と体がそう思わせるのかもしれない。
金正恩氏はロシアのプーチン大統領にも触手を伸ばしている。
4月末日までに金正恩氏がプーチン氏と会談する、とロシア側がすでに発表している。ロシアは国連安全保障理事会の常任理事国だ。金正恩氏は制裁の緩和をプーチン氏に頼むのだろう。緩和の強弱はあるだろうが、ロシアが応じれば、次は中国にも同様に緩和を求める。そしてロシアと中国の虎の威を借りてアメリカに圧力をかける。
実にうまい戦術である。金正恩氏は「トランプ氏はプーチン氏と中国の習近平(シー・チンピン)国会主席を、そろって敵に回すわけにもいかないはずだ」としたたかに計算しているのだ。これこそ外交戦術だ。
だが、そのリスクは小さくない。短期的にはしのげるだろうが、長期的には国際社会への貢献がなければ孤立してしまう。金正恩氏が本当に頭の切れる男であるなら、孤立のリスクを真剣に考えるはずだ。その様子はみられない。
北朝鮮の“悪の枢軸”体質は変わらない
4月18日付の産経新聞の社説(主張)はこう書き出している。
「北朝鮮の非核化をめぐる交渉が行き詰まる中、トランプ米大統領と金正恩朝鮮労働党委員長が3度目の会談開催に意欲を示した」
「トランプ氏は、韓国の文在寅大統領に『(会談の)可能性はある』と語る一方で、非核化の実現まで制裁を維持する姿勢を強調した」
「金委員長は最高人民会議の施政演説で、2月の2度目の会談が物別れに終わったのは米国が『実現不可能』な案を要求したからだと批判しながら、『今年末までは忍耐心を持って米国の勇断を待つ』と通告した。期限付きで制裁措置での譲歩を求めたものだ」
金正恩氏が使っている「忍耐心」と「勇断」という言葉。自分には忍耐力があるので、相手のアメリカに勇気ある決断を求めることができる、という意味だ。自分が世界で一番偉い人間だと思っているのだろうか。
したたかで海千山千の戦術だと言っても、これでは国際社会を味方に付けることはできない。かつて批判された“悪の枢軸”体質は、いまも変わっていない。やはり金正恩氏には思慮分別が欠けている。