イラン攻撃をなぜ10分前に中止したか

アメリカとイランの関係が緊迫の度を高めている。

対イラン追加制裁の大統領令署名をするトランプ大統領(2019年6月24日)。(AFP/時事=写真)

仲介役を買って出た安倍晋三首相がイランを訪問したタイミングで、イラン沖のホルムズ海峡を航行中だった日本のタンカーなどが攻撃を受けた。トランプ大統領は証拠映像を示してイランの関与を断定したが、イラン側は断固否定している。

そうして両国の軍事的緊張が高まる中、今度はイランが領空を侵犯した米軍の無人偵察機を撃墜したと発表した。アメリカは「飛行していたのは国際空域」と主張、トランプ大統領は「イランは大きな過ちを犯した」とツイートした。偵察機撃墜の対抗措置としてトランプ大統領は限定的なイラン攻撃を一時承認したものの、イラン側に150人の犠牲者が出るとの報告を受けて、作戦実施の10分前に中止を命じたとも明かしている。

ここまでくると、米軍のイラン攻撃は時間の問題のようにも思えるが、トランプ大統領はそこまで踏み込まないと私は見ている。なぜならトランプ大統領の頭の中は、2020年2月から始まる大統領選挙一色だからである。このままイランとの戦いに突入したら、選挙戦が不利になるのは目に見えている。開戦1週間程度で決着をつけられるならいいが、イランはそれほど簡単な相手ではない。

イランは大産油国であり、人口約8000万人、国土の広さは世界17位の大国だ。ペルシャ帝国の伝統を受け継ぐ中東の先進国で、国民の教育レベルは高い。イラクを支配していたフセイン政権はイスラム教スンニ派の少数派だったが、イランは最高指導者や国家元首以下、国民の9割以上がシーア派というシーア派大国で、宗教的な団結力や忠誠心は強い。経済制裁に慣れている国民は戦時下の窮乏にもそうそうくじけない。

しかも、アメリカがイランと戦端を開いた場合、「反米」で同調しやすいロシアやシリア、イエメン、さらにはトランプ政権との関係が悪化しているトルコや中国などもイラン側に回る可能性がある。直接イランに与しなくても、この機に乗じてフーシー派やイスラム過激派がテロ活動を活発化させることも十二分に予想できる。

一方で湾岸戦争、イラク戦争、アフガニスタン派兵のときのようにアメリカに協力して出兵する国があるだろうか。まずヨーロッパ勢は協力しそうにない。トランプ政権がイラン核合意(米英仏独ロ中とイランによる2015年の合意)を勝手に離脱したことが1つの発端だからだ。少なくともイランとの経済的な結びつきが強いフランス、ドイツなどは動かないだろう。