ヨーロッパにも防衛負担増を迫るトランプ

2017年の大統領就任以来、方々に因縁を付けたり、ケンカを吹っ掛けてきたトランプ大統領だが、戦争に持ち込んだことは1度もない。

時事通信フォト=写真
日米首脳会談時に握手を交わすトランプ大統領と安倍首相(2019年6月28日)。

あれだけ罵り合っていた北朝鮮の金正恩委員長とは歴史的な首脳会談を果たしたし、以前指摘したように開戦前夜という雰囲気の対イラン戦争も回避したいのがトランプ大統領の本音だろう。

建国243年の歴史で、アメリカは220年以上も戦争をしてきたと言われる。およそ戦争で成り立ってきた国家と言ってもいい。時の大統領は自由や民主主義、あるいは正義や人権を守るために戦う、と戦争の正当性を訴えてきたが、それはほとんど建前だ。アメリカが戦争する理由は、誰もが知っているように軍需産業のためである。

トランプ大統領も軍需産業にそっぽを向かれたら自らの政権が長続きしないことはよくわかっている。しかし、歴代の指導者と違って、実は戦いに臆病だからアメリカ人の血が流れるような戦争はやりたくない。次の大統領選挙にもマイナスになるからである。

そんなトランプ大統領がはたと気がついたのは、商売相手からディールを引き出し、女性を口説いてきた自分の口先が外交交渉にも使える、ということだ。

たとえば対ヨーロッパ。トランプ大統領は大統領選挙中からNATO(北大西洋条約機構)不要論を唱えて「我が国の拠出金負担が大きすぎる」と不満を呈していた。大統領就任後は「アメリカに残ってほしければ、NATO加盟国は防衛費支出の対GDP比を引き上げろ」と言い募ってきた。NATOは25年までに加盟国の防衛費を対GDP比2%以上にする目標を掲げているが、ドイツやフランスなどの大国をはじめ対GDP比2%に達していない国が多い。トランプ大統領の「口撃」を受けて、18年7月のNATO首脳会議では、防衛費支出の拡大目標達成に向けて加盟国が強くコミットする旨の共同声明が出された。それでも物足りないトランプ大統領は「25年までではない。直ちに防衛費支出を対GDP比2%に引き上げる必要がある」「目標を4%に拡大せよ」と迫ったという。

アメリカの軍事力に頼ってきたNATOにケチを付け、「離脱」をちらつかせて軍事負担の均衡を求めた結果、加盟国の防衛費支出拡大という「果実」を得た。当然、兵器は世界一の武器輸出国であるアメリカからも大量に買い込むことになるわけだ。

一方で北朝鮮を挑発して緊張感を高めれば、日本はイージス・アショアとF35戦闘機100機、韓国なら高高度防衛ミサイル「THAAD」などの高額兵器を購入してくれるし、中東を引っかき回せばお得意様であるサウジアラビアやエジプト、UAEなどが大量に武器を買ってくれる。