日米で祭り上げられる異端の経済理論

財務省の発表によれば、国債や借入金を合計した「日本の借金」は2019年3月末時点で1103兆円に達し、年度末残高は3年連続で過去最大を記録した。日本の政府債務残高は対GDP比で236%(18年)。この数字は財政破綻したギリシャの183%、国家そのものが破綻したベネズエラの175%を大きく引き離して世界ワースト1位だ。

日本の借金が増え続けている理由はハッキリしている。18年度の日本の税収は60兆円を超えて過去最高を記録したが、40兆~60兆円の税収に対して100兆円規模の予算を毎年組み続けているのだから借金が膨らむのは当然である。借金の大半は国債。政府は赤字予算を埋め合わせるために国債を発行し続け、世界最大の国家債務を日々更新しているのだ。

日本が抱える大問題の1つは国家債務に対する危機意識の低さだと私は思っているが、近頃は「日本はいくら国債を発行しても財政破綻しない」とか「借金なんて気にする必要ない。政府はもっと積極的に財政出動して、景気刺激をすべきだ」といった声まで聞こえてくる。そのような赤字容認派、赤字奨励派の論拠の1つに祭り上げられているのが、「現代貨幣理論(MMT:ModernMonetaryTheory)」である。

MMT(現代貨幣理論)を提唱するニューヨーク州立大学のステファニー・ケルトン教授。(時事通信フォト=写真)

提唱者はニューヨーク州立大学のステファニー・ケルトン教授ら。MMTの中核にある考え方は「自前の通貨を持つ国がいくら自国通貨建ての国債を発行しても、デフォルト(債務不履行)には陥らない」「インフレにならない限り、財政赤字を膨らませても構わない」というものだ。

ケルトン教授は16年の米大統領選挙で「民主社会主義」を標榜し、大学無償化などの財政拡大策を訴えて大旋風を巻き起こしたバーニー・サンダース上院議員の政策顧問を務めた。サンダース氏は20年の大統領選挙でも民主党からの出馬を表明していて、ケルトン教授も再び政策顧問に就くという。

また、18年11月の連邦議会選挙で初当選し、史上最年少の28歳で下院議員になったアレクサンドリア・オカシオコルテス氏がMMT支持を表明して話題を呼んだ。アメリカでは財政政策の理論的裏付けとしてMMTが注目される一方で、異端視する経済学者やエコノミストも多く、論争を呼んでいる。

自前の通貨を持っている国が自国通貨建ての国債をどれだけ発行してもデフォルトしないという理由はなぜか。いざとなれば際限なく自国通貨を発行できるからだという。