シーレーン防衛問題以上に波紋を呼んだのは、「日米安保見直し」発言である。G20大阪サミット閉幕後の会見で、トランプ大統領は「日米安全保障条約を公平な形に見直す必要があることを安倍首相に伝えた」ことを明らかにした。

米国は日本のために戦わなくてはならない

事前に日米安保条約の破棄について側近との私的会話で言及したとの報道が流れたが、破棄については「まったく考えていない」と否定したうえで、「ただ不公平な合意だ。日本が攻撃されたら米国は日本のために戦わなくてはならない。しかし米国が攻撃されても日本は戦わなくていい。この6カ月間、(不公平だと)安倍首相に言ってきた。変えなければならないと彼に伝えた」などと語った。日本国民は安倍首相からそのような発言があったとは聞いていない。首相としても真意を探りかねているのだろう。

「片務的で不公平」と言うが、トランプ大統領は日米安保条約が締結された経緯も背景もわかっていない。紛争解決の手段として武力を2度と使わないとする憲法を駐留米軍が残していったこと、サンフランシスコ講和条約以降はアメリカの傘に守られながらアメリカの要請で自衛隊をつくったこと、再軍備となると周辺国が神経質になるので防衛費にGDP1%枠というタガをはめてきたことなど、トランプ大統領は何も知らないのだ。

日米安保条約が片務的というのも間違いで、新安保法制によって自衛隊は米軍の指揮下に入って戦うことが可能になった。「米国が攻撃されたときに日本人は命をかけて助けてくれるのか」という質問には、「法律的に可能になりました」と答えられる。そもそも米軍が好き勝手に使える基地が占領当時のまま日本に残されているのだから、日本からすれば屈辱的、隷属的な条約なのだ。

ところで、トランプ大統領の「安保見直し」発言で日本の産業界はにわかに沸き立って、戦前に世界恐慌発の大不況から軍需産業が立ち直っていった頃の雰囲気が出てきている。「自主防衛」を夢見る勢力も色めき立っているし、参院選を乗り切った安倍首相も改憲論議を前に進めようとしている。

「シーレーンは自分で守れ」「不平等な安保は見直すべき」という一連のトランプ発言は、憲法改正を目指す安倍首相にとっては棚ぼたになるかもしれない。ディールと前任大統領の仕事を踏みにじるのが大好きなトランプ大統領でなければ、日米関係や国防を見直すきっかけは生まれなかっただろう。さらに言えば、トランプ大統領のリップサービスは、2期目に入ったらなくなると見たほうがいい。米大統領に3期目はないからだ。だから日本にとって、トランプ大統領が再当選を狙っている今が安保見直しのパーフェクト・タイミングなのだ。

しかし、安保見直しや国防論議がヒートアップして暴走すると、「いつか来た道」になりかねない。敗戦の反省を強いられて鬱屈と生きてきた民族だけに、1度走り出すと止まらなくなる危険性がある。ゆえに、もう少しトランプ発言の意図がよく見えるまでは煽りに乗らないことが肝要である。

(構成=小川 剛)
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