抗生物質は「ウイルス」には効かない

さらに、2番目は、メリットがそもそもないケースです。メリットよりデメリットの方が大きいので、ある意味において1つ目と重複しています。ですが、ここでは分かりやすく考えるためにあえて分けています。たとえば、細菌にしか効かない抗菌薬を、ウイルス感染の治療に使うようなケースです。この場合、抗菌薬を使うメリットは皆無となります。

よく勘違いされるのですが、抗菌薬、いわゆる抗生物質は、細菌に効果を発揮するものでウイルスには無効です。抗菌薬を必要以上に使うと、耐性を持つ細菌を増やす恐れもあり、海外では「スーパーバグ」という名で問題視されています。日本でも院内感染による死亡の原因が、スーパーバグである事例も多数発生し、社会問題になっています。抗菌薬を多用して院内感染が広がると、ムダな医療が患者を苦しめたとも解釈できます。

最後に3番目は、デメリットが大きすぎる場合。こちらはメリットをデメリットが大きく上回るという意味では1番目と重なりますが、この場合はムダという言葉のニュアンスがより強いと考え、2番目と同じように分かりやすさの観点から、別にしています。

たとえば、良かれと思っておこなった医療が、結果として患者に無視できない負担を強いるような場合です。典型的なのは延命治療。患者が口から食事をできなくなったとき、本人が希望していないのに胃に管をつないで、栄養液を定期的に注入して生きながらえさせるようなケースがあります。人間の尊厳が置き去りにされたまま、命をつながれる高齢者は日本でも多いのです。場合によっては、デメリットしかないのではないかと思える部分もあります。

「何もされないのは心配」とムダな医療を求める

なぜムダな医療が生じるかというと、なにも医療従事者が患者を貶めるためにやっているわけでは、もちろんありません。

一つは、医療従事者が知っていてやっている場合があり得ます。健康に大きな影響が及ばない範囲で、収入を増やそうという経営的な目的、万が一病気を見逃したら問題になるといったリスク回避で行われる可能性があるのです。

また、もう一つは、医療従事者が知らずに行っている場合もあるでしょう。医療は日進月歩。これまで必要とされていた医療が、不必要となるケースさえあり得ます。そうした進歩を知らずに、無用な医療が行われることもあります。ある病気に、これまで使われていた薬が効果を示さないと新たに判明することはよくあるのです。医療従事者も膨大な情報を常にウォッチできるわけではなく、これは仕方ない部分はあると考えています。

一方、患者側も安心材料としてムダな医療を求めることがあります。医療従事者は無用と思っていても、患者が何もされないのは心配だと、求めてくるのです。それに応えざるを得ない問題もあるでしょう。ただそんな医療の中には、メリットよりもデメリットが大きいこともあります。結果として、ムダになっているわけです。

こうした要因が組み合わさって、医師が無意味な薬を処方することがあります。「念のため」「求められるから」などの"言い訳"がつけられて。