精神疾患に対して「安易に薬を出す」構造

患者側の負担がないという経済的な要因が大きいですが、「医師や病院などの専門家集団のガバナンスが弱い」という弱点も影響したと考えます。入院の必要性について専門家集団が統制を利かせる仕組みがあれば、もっと歯止めが利いた可能性はありました。これは象徴的な出来事だと考えていますが、高齢者に限らず、かつては今よりも医療費の自己負担は低く抑えられていました。そうした構造的な欠陥はムダな医療の温床となったと考えます。

結果として、ちょっとした頭部の外傷で、子供に対して放射線の強いCT検査を行ったり、精神疾患に対して安易に薬を処方したり、医療機関の間の情報共有が乏しいままに、ムダなドクターショッピングを引き起こしたりする、日本らしいムダな医療のまん延も招いてきたと想定しています。

米国で同時発生的に起きた「ムダな医療の発表」

そんな問題意識を抱えつつ、日本での情報過疎を嘆いている中で、2013年、私は米国で「同時発生的に起きていた一つの動き」に気がついたのです。世界的にも権威のある医学会が、自らムダな医療を発表し続けるという動きでした。

たとえば、ガンの分野では、世界的にも影響力の強い米国臨床腫瘍学会。消化器の領域でも同様に影響力の大きな米国消化器学会、精神では世界の診断基準を示している米国精神医学会。さらに、米国心臓病学会、米国産科婦人科学会、米国小児科学会など。世界に一目置かれる医学会が「不必要と思われる医療行為」を自ら発表していたのです。いったい何が起きているのかと、私はこの活動に引き込まれました。

震源地は米国のフィラデルフィアにある、公的な団体、米国内科専門医認定機構財団(ABIMファウンデーション)という組織でした。ここが米国の医学会を束ね、ムダな医療を発表していく「チュージング・ワイズリー・キャンペーン」という活動を進めていたのです。