日本の医療全体を統率する仕組みが乏しい

より構造的な問題もありました。専門家が良く言えば自由自在に、悪く言えば無手勝流で医療を行える「お手盛り医療」が当たり前になりやすい環境があったためです。

2011年、世界的な医学誌として知られる『Lancet(ランセット)』誌で、東京大学教授の橋本英樹氏らが、日本の医療の特徴を次のように解説しています。「自由放任主義的なアプローチを取ることを医療政策の基本方針としてきた。その結果、医師や病院などの専門家集団のガバナンスが弱く、説明責任が十分果たされてこなかった」。

その上で、日本の医師の診療について「医師が専門学会や病院ではなく、出身大学の医局に帰属意識をもつ傾向がある。医師の診療パターンは、出身大学の医局・教授の流儀によって特異的に形作られる傾向がある」と指摘しています。

日本の医療全体を統率する仕組みが乏しく、個々の集団が独自に医療のやり方を決めるという仕組みは、地域に合わせた医療を提供する意味ではよいですが、無益な医療を是正しづらい仕組みにもなり得ます。ムダな医療が甘受されやすい構造と私は考えています。

また、日本では半世紀以上「国民皆保険」を保ってきました。一般に医療に自由にアクセスできる点は良いのですが、過剰な受診につながりやすく弱みともなってきました。患者の負担が低く抑えられたために、受診のハードルが異常に低く、過剰な医療が生まれやすい土壌につながったのです。

退院させるべき高齢者を長期にわたって入院させていた

典型的にこうした構造の副作用が出たのが、「社会的入院」だと考えています。

日本では、昭和の時代、社会的入院と呼ばれる必要性が乏しい入院を続ける患者を大発生させたことがありました。1973年から9年間、70歳以上の高齢者の医療費を無料化したことが発端となりました。高齢者の医療や福祉を充実させて、健康な人を増やすだけであればよかったのですが、副作用は大きすぎました。過剰な医療行為が野放しになり、なかでも退院させるべき高齢者を長期にわたって入院させるケースが横行してしまったのです。

1985年には入院の長期化を問題視した国は、都道府県ごとに人口当たりの病院のベッド数を規制することにしました。ですが、必然的だったのだと思いますが、駆け込み需要を生み出してしまい、病院のベッド数をかえって20万床も増やす結果になったのです。

現実としては、入院を増やすと、医療機関の経営にとってはキャッシュフローが安定します。現金収入が増えれば、当面はつぶれづらくなります。これが平成から令和の時代まで引きずる過剰な入院患者を抱える日本の問題につながりました。