患者は医療を疑ってもいい

先に紹介したLancet誌では、ムダな医療を生み出す要因に、医療従事者側の要因として「科学的な根拠は、実際の診療の経験と食い違っていると考えがち」「医療従事者の数字音痴」などとあるほか、患者側の要因として「医療が正確だと考えがち」「医師の専門性に疑いを持たない」「患者側が責められるのがいやで医師に質問しない」という説明がなされています。患者は医療を疑ってもいいのです。むしろ、疑うべきだといってもいいかもしれません。そこから、自分自身の問題として医療について考えることを当たり前としていくことが重要です。

良かれと思って行う医療にも、落とし穴が潜みます。日本も手盛り医療の問題を解きつつ、ムダな医療に別れを告げ、医療の価値に目を向ける。そうした時期に来ているのではないでしょうか。

チュージング・ワイズリーに示されている、医療行為を「賢く選ぶ」ための具体的なリストは、拙著『続ムダな医療』(日経BP)をご覧いただければ幸いです。2014年刊行しました『絶対に受けたくないムダな医療』(日経BP)と、あわせて約550の「ムダな医療」のリストを掲載しています。また、2019年には、より易しくチュージング・ワイズリーを解説した入門編としての新書『世界の医療標準からみた受けてもムダな検査 してはいけない手術』(洋泉社)もお出ししています。ご自身、または身近な人の健康、あるいはこうした領域についての知識を深めるためにご活用ください。

室井一辰(むろい・いっしん)
医療経済ジャーナリスト
大手出版社を皮切りに、医学専門メディアや経営メディアなどで全国の病院や診療所、営利組織、公的組織などに関する記事を執筆。米国、欧州などの医療、バイオ技術の現場を取材。2014年に『絶対に受けたくないムダな医療』(日経BP)、2019年に『世界の医療標準からみた受けてもムダな検査 してはいけない手術』(洋泉社)を刊行。本作も含め、米国で始まった「チュージング・ワイズリー」の動きを紹介し、広く注目を集める。執筆や取材協力などを『週刊ポスト』『女性セブン』『週刊現代』『週刊東洋経済』などで行う。石川県金沢市生まれ。東京大学農学部獣医学課程卒業。
(写真=iStock.com)
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