個人の力に頼らない「チームアップ方式」
このケースで一翼を担ったCA本部のフィナンシャルスポンサーグループが今後、さらに成果を上げることは想像に難くない。
「大企業から中小企業まで当行が誇る25万社の顧客企業の問題意識を把握する一方で、海外ファンド勢からは投資先の相談を受ける。海外のファンドにとって、当行の商業銀行基盤は資金提供能力とともに大きな魅力になっています」
同グループの佐藤淳一はこう説明する。事実、実績も積み上がっている。なかには、飲料メーカー、ポッカコーポレーションのMBO案件のように、そのサポートが評価されて、メーンバンクの座を他の銀行から奪取することに成功したケースもある。そして、かつての軋轢の相手だった法人営業部門のビジネスチャンスを格段に広げさせている。
08年7月には、「グローバルデスク」というセクションを設置。25万社の取引先企業と海外のファンドとのマッチングをクロスボーダーで行っていく体制を強化した。
そのような案件の場合、他社は法人営業部門や投資銀行部門の担当者が、そのスキルに依存して一本釣り的にディールを動かしているが、三井住友はそうではない。顧客企業もファンドも、CA本部が窓口となり、銀行、あるいはグループの組織力を結集してあたる「チームアップ方式」でいく。顧客にとっては窓口が一つの「ワンバンク」となるが、問題を解決するために、すべてを自分のところで担うのではなく、チームを編成して対応するのだ。
山中はこう言い切る。
「お客様に最良の提案をし、その経営課題を解決できるのに役立つのであれば、ファンドであれ、M&Aハウスであれ、コンサルタントファームであれ、会計事務所であれ、外部のプロフェッショナルのどことでも組みます。銀行の自前主義には陥らない」
これは、「短期的な収益を追うな」という言葉と同様に、「大切なことは顧客企業の成功。そのためには誰とでも組んで“チームアップ”せよ」という、志半ばで亡くなり、図らずも山中たちへの遺言となってしまった宿澤広朗の言葉でもある。
3年ほど前、三井住友は顧客からの信頼を喪失しかけた。その苦境でもがき苦しみ、編み出したCA本部の活動は今、サブプライム問題の深刻化によって金融セクターの土台が大きく揺れる中で、一段と光を放ち始めている。
それはなぜか。答えは容易かもしれない。CA本部の存立理由こそ、近年、世界の金融業が失いかけた金融の本分、信頼を取り戻す道標だからだ。CA本部の活動に込められた羅針盤は金融業全体の活路の方角を指している。(文中敬称略)