チームの「混乱期」こそが成長のチャンス
では、本当に考えなければならない部分とは何か。先ほど、大きな負けはきっかけをくれると書いた。そのきっかけとは、選手たち自身が変わろうとして「もがくこと」だ。
この時期のことを「混乱期」と僕は呼んでいる。「混乱期」とは、チームビルディングの5段階を示したタックマンモデルからとっている(図表参照)。
チームがもがくということは、団結することや、まとまることからはかけ離れている。しかし、その時はそれでいい。重要なのは、リーダーが「チームには混乱期があるのだ」と認識し、見越した上で、チームをマネジメントしていくということである。
チームのリーダー的存在の人は、混乱期を乗り越えるべくチームをまとめ、形成期と呼ばれる次の段階へと導いていかなければならない。そのためにも、リーダーには混乱期を、チームにとってのマイナスではなく、プラスだと認識することを大切にしてほしい。
ただ導いていくだけではなく、そのことを頭に入れてチームをまとめていくことが重要だ。だからといって、リーダーがすべてを背負い、まとめようとする必要もない。特に人数の多いチームには、少人数のグループを作る必要がある。
その少人数のグループ内で発生した問題を、リーダーに報告する。それを受けて、リーダーはグループ内での解決を促したり、考えたりする。そうやってチームがまとまっていけばいいのだ。
前述の「本当に考えなくてはならない部分」とは、こうしたチーム内の基礎的な部分、いわばチームワークを指している。もがく混乱期を通じてお互いの価値観をすり合わせていくことこそがチームワークの形成につながる。この価値観のすり合わせをしないと、あとあと大きな不満となって表れる。チームの価値観について腹を割って話すためにも、「大きな負け」と、それに伴う「混乱期」は、なくてはならないものなのだ。
負けたチームだけが手にするもの
死闘を乗り越え制すチームと、最後の最後で乗り越えられないチームとの差はまさにここにある。チームの基礎力=チームワークだ。もともとの才能やフィジカル的なセンス、技術の差などではない。もちろん技術は大切だし、気持ちだけでは勝てないが、数多くの事例を見た結果、僕が言いたいのはそこではない。
いいチームは、「困難に繰り返し立ち向かっていく中で強くなっていく」と僕は考える。そもそも「死闘ができる」のは、チームの基礎がしっかりしているからなのだ。基礎のないチームは死闘を経験することもない。
チームの基礎部分、つまりチームワークが、死闘を迎える前にきっちりと仕上がっているかどうか。これが、死闘を乗り越えられるチームとそうでないチームの違いだと僕は思う。
チームワークを仕上げるためには、まずはチームがどういう状況にあるか、自分たちを顧みる必要がある。顧みるためには、きっかけが必要だ。そのきっかけが、「大きな負け」なのである。