一進一退の「死闘」と呼ばれる試合では、実力に劣るチームが番狂わせを起こすことが多い。なぜなのか。スポーツメンタルコーチの鈴木颯人氏は「死闘を制するチームは、その前に大きな負けを経験していることが多い。一方、優勝候補はそうした経験がないので、土壇場に弱い」という――。
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死闘を制すチームの共通点

スポーツ好きな人ならば誰しも目にしたことがあるだろう、「死闘」と呼ばれる試合がある。死闘とは、両チームあるいは両個人が、実力と「勝つ」という気持ちを高いレベルで拮抗させたときにのみ生まれる、文字通り「決死の闘い」のことだ。

たとえば記憶に新しいのは、2015年のラグビー・ワールドカップ予選、日本代表と南アフリカの試合だ。優勝候補といわれていた南アフリカに対し、日本は残り時間4秒から劇的な逆転勝ちを収めた。このときだれが日本の勝利を予想していただろうか。

しかもその後、日本は予選リーグで2勝するも、スコットランドに10対45の大差で敗れ、決勝トーナメント進出を逃した。3勝1敗と勝ち越しているのに、決勝トーナメントに進めないチームは、ワールドカップ史上初だった。

僕がメンタルコーチとして見てきたアスリートの中にも、死闘を体験し、それを制してきたチームや選手がたくさんいる。そんな選手たちには共通していることがある。それは、「かつて大きな負けを経験している」ということだ。

”大きな負け”がターニングポイントに

先述のラグビー日本代表にしても、1995年のワールドカップで、ニュージーランドに17対145の大敗を喫している。

このような“大きな負け”はターニングポイントとなる。選手たちや指導者に「変わろう」とするきっかけを与える。逆に言うと、その負けを経験できない、中途半端に勝ち進んでしまうチームは、そのきっかけを得ることができない。

優勝候補と呼ばれるような実力的に強いチームでも、もともとの才能やフィジカルの強さだけで勝てるかというと、最後の最後、大事な場面では負けてしまう。能力的な部分に頼りすぎて、勝つために本当に考えなくてはならない部分を無視してしまっているからだ。