変わるために「もがく」ということ

負けることは悪いことである。勝つことはいいことである。少し極端だが、スポーツの世界と同様、ビジネスの世界でもこれがふつうの認識なのではないかと思う。

しかし、よく考えてみれば、絶対に負けられない試合ばかりではないとわかるだろう。たとえばスポーツの練習試合は、勝つこともひとつの経験や自信につながるが、それ以上に普段の公式戦であまり起用しない選手を出場させるなど、チームの練習として試合を利用することは多くある。こうした機会に負けを経験することが、自分やチームを考えるきっかけになる。

勝ち続けてしまうチームでは、内容が悪くても、勝ってしまうことにより自身を振り返ることがなかなかできない。つまり、変わるきっかけを得られないのだ。

大きな負けは自身やチームを変えていくきっかけである――。

そう考えると、負けは絶対に経験すべきことであり、チームにとってマイナスではなくむしろプラスであると考えることができる。ただし、負けること以上に、負けた後どう行動するのかがさらに大切だ。負けを「変わるチャンスなんだ」と捉え、なぜ負けたのか、相手と自分の違いは何なのかなど自分を顧みて、変わるために「もがいていくこと」が強くなるためのファーストステップとなる。

ビジネスでも目の前の数字に惑わされてはいけない

第一、負けるのは悪いことだという観念を強く持ちすぎると、人は萎縮してしまう。もちろん負けられない試合に「絶対に負けない」という強い意志を持って向き合うことは大切だが、先ほども言ったとおり、よく考えてみると「何がなんでも負けられない試合」というのはそう多くはない。練習試合や紅白戦では、負けてもいいのだ。そこで負けることで、変わるチャンスを得られるのだから。

負けや失敗を恐れてばかりいては、無難な動きしかできなくなる。しかし、得点を重ねて勝つためには、無難な動きだけではだめだ。ファインプレーと呼ばれるような鮮烈で大胆な動きが得点につながったり、チーム全体を活気づける役割を果たしたりするが、どれも失敗を恐れていてはできない動きであろう。

負けを恐れないために、チームならば「失敗してもいいんだ」と思える環境作りや、個人ならばそうした環境に身を置くことが大切だ。このような環境作りは一朝一夕にできるものではないので、指導者やチームのリーダーは意識して積極的に取り組んでほしい。

ビジネスにおいても、結果を出すための行動ばかりをしがちである。僕も営業経験があるから、目の前の数値目標についつい追われてしまう気持ちはよく分かる。しかし、今まで以上の結果を出したいのならば、目の前の無難な勝ちを拾いにいくのではなく、新しいことにチャレンジしなければならない。そうして失敗することが、自分を顧みて、何をすればいかと思考量を増やし、大きな勝利を手繰りよせることにつながるのだ。