現役時代、日本一を11回経験した名投手は、福岡ソフトバンクホークス監督就任4年目で3度目の日本一を手にした。生え抜きの若手選手が大活躍するチームを率いる名伯楽の指導とは。

最低限のルールで、現有戦力を最大化

――2018年シーズンは序盤から複数の故障者が出る波乱の幕開けとなりましたが、ペナントレースを2位で通過。そこからクライマックスシリーズ(以下、CS)を勝ち上がり、日本シリーズを2年連続で制しました。各選手も満身創痍といった中で、どのようにして最後までモチベーションを維持させたのでしょうか。

日本シリーズを制覇し、言葉を交わす工藤公康監督(左)と甲斐拓也捕手(2018年11月3日、マツダスタジアム)。(時事=写真)

まず、昨シーズンは監督としては“失敗の年”と捉えています。リーグ優勝をすることが監督の最も大事な職責です。選手の頑張りで、CSを勝ち抜き、日本一になることができた。そこには感謝しかありません。

8月、9月という、ペナントレースを取れるか取れないかの瀬戸際で、私は「試合に集中するために、自分の一番いいコンディションをつくりなさい」という大きな全体ルールを設定しました。その目的のためならば、ベテランでも若手でも自己判断で練習メニューを選択したり、少なくしたりしてもかまわないということです。特定の選手だけに適用すると、チーム内に不協和音が生まれてしまいますから。この最低限のルールで、各選手がコンディション管理を練習から考えてくれたことが非常に大きかったと思います。

――選手を信用し、自己判断に委ねたわけですね。

全員それぞれにいいコンディションをつくってもらって、ベストな状態で試合に集中することを優先しましたが、実際には、どの選手も満身創痍だったと思います。それでもなお、「痛いの痒いの言っている場合じゃない」という思いで戦ってしまうのが野球選手の性。なので、昨シーズンは全体ルールとして設定してみよう、と考えました。みんな本当の意味のベストな状態とは違い、多少なりとも無理をしていることは間違いないのですから。

――個人個人が自己判断でベストな状態をつくることができるのでしょうか。

完全に選手任せというわけではありません。選手の状態はコーチやトレーナーがよく知っているので、彼らが選手にアドバイスしながらメニューを調整していきます。ただ、最終的な判断は選手に委ねます。チームが最後まで勝ち抜くためには、選手一人ひとりが自分の状態をベストにする方法を知っていなければならない。そのうえで、チームの皆が1つの方向を向けるかどうか。選手もコーチもトレーナーも同じ方向を見てくれていたから、日本一になれたのだと思います。

今のソフトバンクホークスの選手たちはペナントレースもCSも日本シリーズも“勝ち”を経験しています。選手自身がシーズンを通じての勝ち方を知っているんですね。ですので、勝負どころでは選手に声をかけるようにしていますが、逆に前半などは負けていても、あまりミーティングをしたりはしなかったですね。