――選手の状態は工藤監督も把握しているのでしょうか。
もちろんです。私も普段の練習から選手の状態を見ていますし、選手の側にいるコーチやトレーナーから情報をもらっています。その情報を私がフィードバックして状態を把握しておかないと、選手の起用や交代が行えません。監督が試合中しか選手を見ていなかったら、いい選手を使いたいだけ使ってしまうんです。選手というのは「行け」と言われれば「はい!」、「大丈夫か?」と聞けば「大丈夫です!」と答える。それで壊してしまうんです。
私たちはそうならないように、試合前のミーティングで各コーチと選手のコンディションを確認して、どこで交代するか決めておき、調子がよくても交代します。監督の私自身が選手一人ひとりの情報を持っておいて、早い決断をしていくことが、結果として故障者を増やさず、最後まで活躍してもらうことにつながると思います。
――選手の状態というのは、監督の感覚で測るのでしょうか。
自分の目で観察もしますが、トラックマン(球の回転数や軌道を測定できる機械)などのデータも重視します。選手のいいところは誰もが皆理解できるのですが、そうでない細かな変化はなかなか見えてこない。データを見るとそうした変化まで見えてくることがあります。そうすればすぐにコーチと対策を考えることができます。
選手がよくなる姿を見るのが好き
――17年に日本代表として、ワールド・ベースボール・クラシックで大活躍した千賀滉大投手に続けとばかりに、昨シーズンは12球団ダントツの盗塁阻止率.447を記録した“甲斐キャノン”甲斐拓也捕手や、「第2先発」としてCSで2勝を挙げた石川柊太投手など、育成ドラフト枠から上がってきた若手選手が大活躍しました。どうやって育成しているのでしょうか。
未知の部分がたくさんある若い選手が、活躍できるきっかけを得られる環境がないといけない。それをつくっているのが“3軍制”です。ソフトバンクは3軍まで入れると90人近い選手がいる。その90人が常に切磋琢磨して、28個しかない1軍の席を争うという環境が、チームを強くしています。
人生で初めて、3軍でプロのコーチや先輩選手の指導を受けて、劇的に変わる選手は少なくない。私たちがいい悪いを決めるのではなく、使ってみて判断しています。すると、何が通用し、何が足りていないのかを、選手自身が感じますから。そのうえで科学的な根拠に基づいた指導をしていけば、ただコーチが「こうしろ」と指導するよりもはるかに成長が速いわけです。細かいことは、コーチには話はしますけど、選手自身にはあまり言いませんね。