この常識では考えられない忍耐力も孤独から生まれた、と加来さんは考える。とはいえ、激情に駆られやすいDNAが暴発することもある。

「三方ヶ原の合戦で、武田信玄が進軍してきたとき、家康の浜松城は無視されました。周りは安堵したのですが、家康は『庭先を横切られて黙ってられるか』と、カッとなる。家康軍1万ほどに対し、信玄軍2万7000。しかも相手は天下無敵の最強軍団。にもかかわらず家康は、信長が桶狭間の戦いで今川義元を討ったことをあげ、奇襲戦をすればなんとかなる、と家臣の反対を押し切って出陣してしまう。結果は兵の半分を失う大惨敗。家康は命からがら敗走するわけです」

このとき彼はわざわざ絵師を呼び、自分の惨めな姿を描かせたという。後年もその絵『しかみ像』を眺めることで、自分の戒めにした、とも。

「関ヶ原の戦いでは、『大垣城をやり過ごして佐和山を衝く』と噂を流し、石田三成を籠城から野戦に転じさせ、勝利を収めました。家康は三方ヶ原の合戦に学び、逆に再現したのです。

家康が英雄になれたのは、追いつめられながらも、孤独地獄に沈まずに学習したこと。失敗を次に活かそうと考えた。自らに打ち勝っている。克己心とは、つまり孤独そのものなのです」

せわしない日々の反動で、独りになりたいと思うことはあっても、進んで孤独を望む人はあまりいない。しかし、現代人はもっと独りの時間をつくるべきだと加来さんは言う。

「私たちは、仕事や遊びで常に感情も理性もフル回転している。つまり、日常に埋没しているわけです。まず、独りになり、すべてをシャットアウトして、自分と対話することです。独りでネットやテレビやゲームをして過ごしても、それは孤独ではありません。落ち着いて脳をストップさせる時間を持つ。メリハリが必要でしょう。それには、歩くこともいいですね。散歩を習慣にするのは、いいことだと思います」

一度きりの人生をどう生きるか。答えは自分のなかにしかない。孤独な時間とは、それを見つける、かけがえのないチャンスなのだ。

加来耕三(かく・こうぞう)
1958年生まれ。歴史家。奈良大学文学部卒業。多くの著作を執筆する傍ら、講演、歴史番組の監修も多い。武道への造詣も深く、タイ捨流免許皆伝、合気道四段。『坂本龍馬の正体』『刀の日本史』ほか著書多数。
(写真=iStock.com)
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