他者との交流で孤独は改善されるのか
私たちの住む社会は、昔と比較してさまざまな面が良くなっています。しかし同時に、新たな問題も出てきています。
その1つが人々の孤独・孤立化です。
日本では高齢化による独居世帯の増加や、コロナウイルスの感染拡大によって注目を集めました。前回の記事でも紹介したように、実は孤独・孤立化は、飲酒、喫煙、肥満、運動不足よりも健康にマイナスの影響が大きいことがわかっています(*1)。背景には、孤独を感じると体内で炎症反応やホルモンの過剰分泌が発生してしまい、体のバランスが崩れてしまうというメカニズムがあります(*2)。また、これ以外にも孤独・孤立を感じるほど、冠動脈疾患や脳卒中の発症が増えるという研究もあります(*3)。
社会的な動物である人間にとって、孤独・孤立化は健康への脅威であり、私たちが直面する新たな課題の1つだと言えるでしょう。
この孤独・孤立化への対処方法として真っ先に思いつくのは、他者とのつながりを持ち、交流を増やすことです。この答えに多くの人が「そうだよね」と納得するかもしれません。
しかし、実は最新の研究で「孤独・孤立によるマイナスの影響は、他者との交流で改善されない場合もある」ことがわかってきました。
他者との交流で孤独・孤立感が和らぐ=バッファー仮説
「他者との交流で孤独・孤立によるマイナスの影響が本当に緩和されるのか」という疑問について検証を行ったのは、オランダのティルブルフ大学のオルガ・スタヴロワ准教授とアメリカのエモリー大学のドンニン・レン氏の研究です(*4)。
この研究では2つの仮説を提示しています。
1つ目が「バッファー仮説」というものです。これは、他者とつながりを持ち、交流することで、孤独・孤立感のマイナスの影響を緩和できると考える仮説です。
これまでの研究から、他者とのつながりや交流は、人々の幸福度や生きがいに大きな影響を及ぼすことがわかっています(*5)。家族や友人との良好な人間関係は、幸せの実感や生きがいへとつながっていくわけです。また、他者とのつながりや交流は、健康や長寿だけでなく、さまざまなストレスを緩和する効果があることもわかっています(*6)。例えば、学校や職場で嫌なことがあったとしても、友人・家族・同僚との交流で、そのストレスが忘れられるといった具合です。
このように他者とのつながりや交流は、私たちの心理面にプラスの影響があります。このため、孤独・孤立感のマイナスの影響を他者とつながりや交流によって緩和できるというわけです。この仮説は、多くの人がすんなり受けいれられる内容でしょう。