AI大国になる国は

【アタリ】この先、AIで世界一の大国になるのは中国だろうと私は思っています。理由は簡単です。独裁国家の企業では、5億人や6億人の国民のビッグデータを容易に集められるからです。人々がどういった行動をとるか、どういったセキュリティが必要になるか、ありとあらゆる情報を蓄積し、保管し、解析することがたやすい。それは民主主義の国には決してできないことです。だからこそ中国は、AIの分野で他国に先駆けることができると考えています。

たとえば中国の自動運転車の研究は、日本やヨーロッパやアメリカに比べて、大変進んでいると思います。世界的な規模で中国ブランドというものが出てくる可能性があるとしたら、自動運転車ではないでしょうか。ヨーロッパやアメリカがそれをそのままにさせるか、疑問ではありますけれども。ですから、中国はまず、自国だけでAIをどんどんと伸ばしていって、せいぜいアジア市場に少し広げるぐらいかもしれませんね。

【丹羽】私は、世界で一番のAI大国になるのは日本だろうと思っているんです。本当のAI大国になるためには、国民の大部分がAIを使いこなす仕組みやリテラシーが必要になるからです。逆に言うと、しっかりしたリテラシーがなければ、AIを使いこなすことはできないでしょう。

AIは最後には、小さなスマホみたいなものになり、アタリさんの秘書となり、私を助ける道具になるはずです。いろいろな情報から、何を分類してインプットするかは個人によりますが、日本には、日本人の大部分を占めている高い教育を受けた中間層という人材の強みがあります。

【アタリ】その通りだと思います。日本はAIを製造し、使いこなす手立てをすべて持っていますから、大きな可能性がありますね。

【丹羽】したがって私は、ぜひアタリさんにも、日本がナンバーワンになる後押しをしていただきたい。

【アタリ】私としてはまずはフランス人の背中を押しますよ(笑)。

【丹羽】それは当然ですね(笑)。そのあとでいいです。アタリさんにも力を貸してもらったら、日本人も元気になれますから。

ジャック・アタリ(Jacques Attali)
1943年、アルジェリア生まれ。フランス国立行政学院卒業、81年フランソワ・ミッテラン仏大統領特別補佐官、91年欧州復興開発銀行の初代総裁など歴任。エマニュエル・マクロン仏大統領を政界デビューさせ、大統領に押し上げる役割を果たした。「ヨーロッパ最高の知性」と称される。
 

丹羽宇一郎(にわ・ういちろう)
1939年、愛知県生まれ。名古屋大学法学部卒業後、伊藤忠商事入社。98年、社長就任。99年、約4000億円の不良債権を一括処理し、翌年度の決算で同社史上最高益(当時)を記録。2004年、会長就任。10年、民間出身で初の中国大使に就任。現在、公益社団法人日本中国友好協会会長。