【アタリ】現在のように不安定な国際情勢が続くとして、中国の軍事力がアメリカの軍事力に匹敵するものになるかどうか。私は『海の歴史』(プレジデント社)という近著で、アメリカと中国は海を舞台に軍拡競争を繰り広げるだろうと予測しました。アメリカは、中国が軍事的に危険になるのは15年後から20年後だとわかっています。30年には、中国の軍事予算がアメリカの軍事予算と同程度になっていると見ます。

ジャック・アタリ氏著書の『海の歴史』(プレジデント社)。海を支配する者が世界を制覇するという。

【丹羽】スウェーデンの研究所の発表によりますと、16年の世界の軍事費のうち、1位のアメリカがだいたい3分の1の6112億ドル(約66兆円)。中国が2位で、13%に当たる2152億ドル(約23兆円)です(年平均値107・84円で計算)。私には、10年たっても中国の軍事力がアメリカに追いつくとは思えません。

【アタリ】私の予測では、30年にアメリカ海軍は300隻の戦艦を保有しています。そのうち3隻が新しい空母です。一方、中国人民解放軍の海軍は、戦艦415隻で空母が4隻。それに、従来方式の潜水艦60隻と原子力潜水艦12隻を持ちます。アメリカの艦隊に、十分、肩を並べるはずです。もちろん、アメリカ軍がもっと増強を図る可能性はありうるわけですが。

中国大使をしていらした丹羽さんに、ぜひ伺いたい。中国がこれだけの艦隊を持って「南シナ海と東シナ海は中国のものだ。アメリカの船舶の通航は禁止する」と宣言した場合、いったい何が起こるでしょうか。

【丹羽】公海である以上、中国がそうした決定権を持つことは、インターナショナル・ルールから許されないでしょう。そもそも今のような形で南進を続けることは、中国にとってもリスクが高い。ASEAN(東南アジア諸国連合)を中心としたアジアの国々との話し合いが必須になるはずです。

中国は、非常にメンツを大事にする国ですから、数や量はアメリカと肩を並べようとするでしょう。しかし、軍備は数や量だけ多ければいいというものではなく、中身が伴わなければ本物の軍事力にはなりません。人民解放軍は作戦の立案や演習が、あまり行われていないのではないかと思います。人民解放軍は15年に、弾道ミサイルや戦略核兵器を扱う「ロケット軍」を新設しましたが、既存の陸・海・空軍と一体となってオペレーションしなければ、21世紀の戦争には勝てません。

【アタリ】その通りです。完全に賛成です。中国が求めているのは戦争ではなく、「国際社会で尊重されること」です。したがって、大切なのは軍事ではありません。東アジアという地域には北朝鮮もあるので、大変なリスクがあることは確かです。しかしながら、この地域の未来が何にかかっているかと言えば、やはり日中関係や日中の合意です。日本と中国の関係が良好であれば、世界中が恩恵を受けることになるでしょう。

【丹羽】その影響が、アメリカにも及べばいいですね。ところでアタリさんは、AIと世界の将来について、どうお考えですか。