社内全員から共感を得ようとしてはいけない

デザイン思考で得られたアウトプットが、絵に描いた餅では意味がないのではないか。そのような意見を、IDEOはどう考えるのか。

【IDEO野々村】「JAXAに限らず、これまでにないアプローチで描いた新しいコンセプトに対して、社内全員が共感するのは無理だと思っています。そもそも、全体救済が目的ではないんです。」

見える化されたコンセプトをきっかけに、『自分も新しいことをしたい』『違うアプローチはどうだろう』と考える、チェンジリーダーが出てくるのが真の目的です。」

野々村は、このような動きは、世界中の組織で起こりはじめている変化だという。

組織は、チェンジリーダーたちに引っ張られる形で変わっていく。まずはプロジェクトを牽引したメンバーから。そして、その強い想いが伝播した仲間たちから。

【JAXA保江】「有志の取り組みでスタートしたプロジェクトですが、私自身は、なんとかこの連携で生まれたアイデアの種を、自分の研究につなげたいと思っています。

私の研究分野は、基礎・基盤研究です。人が実際に手にするプロダクトやサービス等とは遠いところにあったり、プロダクトを構成するごくごく一部分だったりします。

でも、このプロジェクトで出たアイデアを基礎・基盤の研究につなげられないと、IDEOと共創した『未来の空』を実現することはできない。だから、なんとか自分の研究につなげたいと思うんです。」

保江の決意は固い。

「JAXAに対するイメージが変わった」

それだけではない。外部にメッセージを発信することによって、民間企業との共創が生まれる可能性もある。社内だけではなく、社外からの期待が高まることによる相互作用も重要だ。

今回、このサイトのコピーライティングを担当したのは、IDEOの森智也。IDEOに入社する前は、月面資源開発に関わっていた。前社の社員たちの間でも、このJAXAの発信は話題になっていたという。

IDEO Tokyoビジネスデザイナー・森智也氏

【IDEO森】「悲観的なニュースが多い中、明るい未来を描くことは、本来、国がやるべき最も重要なミッションだと僕は思います。だから、これを公的機関であるJAXAが提示されたことに、重みがあると感じました。

JAXAのメッセージを見た民間企業の中で、「この分野で協業したい」といった会話が生まれるきっかけになったら嬉しい。」

現在、このプロジェクトには、こんな一般の人たちの声が寄せられている。

「暗いニュースが多い中、夢がある話を久々に聞いて元気が出た」
「日本を代表する機関がこういうことをやっているのは素晴らしい」
「日本から世界に、こういう面白いアイデアがあるんだぞ、と発信してほしい」

JAXAに対するイメージが変わった、応援したい、という声も多い。

そして、岡本や保江が描いた「未来の空」は、新しい世代にも受け継がれていく。