デジタルの世界と私たちの住む世界は違う
アップル、グーグル、アマゾンなどのICT(情報通信技術)企業が隆盛を極め、AI(人工知能)、IoTといったデジタル技術の発展が注目される中、「日本のものづくりは大丈夫か」と不安視する向きがあります。自動車を例に挙げれば、今後はEV(電気自動車)や全自動運転が一気に普及し、複雑な自動車組み立てラインも自動化され、日本のメーカーの優位性は失われてしまうのではないか、という危惧です。
しかし、物事はそう単純ではありません。デジタルの世界は、電子と論理で動く「重さのない世界」です。一方、私たちの住む世界は物理法則が働く「重さのある世界」です。
重さのある世界は、重さのない世界よりもはるかに複雑です。自動車の場合、1トンもの物体を時速100キロメートルで安全に走らせるために、戦闘機のそれをも上回る規模の組み込みソフトウエアが車載ネットワークでつながり、1000分の1秒単位で自動車を制御しています。
また、その部品を作る工作機械にもミクロン単位の加工が求められます。これらは現在のICTの巨大な情報処理能力をもってしても、それだけで制御しきれる情報量ではありません。もちろん、情報処理能力は爆発的に伸びていきますから、いろいろなモノやコトの自動化が可能になりますが、いずれもそう簡単ではありません。
依然として従来の「ものづくり」の技術も重要
囲碁でAIが人間に勝ったように、重さのない世界ではICTが威力を発揮しますが、自動車のように重さのある世界では、依然として従来の「ものづくり」の技術も重要だということです。テスラがEVの量産に苦労していることは象徴的です。
この違いを考えるうえで鍵となるのが、アーキテクチャ(設計思想)という考え方です。製品や生産設備などの人工物にはそれぞれアーキテクチャがあり、(1)機能要素と構造要素(部品など)の関係が複雑に絡み合ったインテグラル(すり合わせ)型と、(2)機能と構造が一対一対応でシンプルに対応するモジュラー(組み合わせ)型の間のどこかに位置づけられます。
さらに、モジュラー型は機能・構造が一対一対応のため、機能完結的な部品が多いので、これらを業界標準のインターフェース(結合部分)でつなげば、企業の垣根を越えた部品の組み合わせが可能になります。この場合を「オープン・モジュラー型」「オープン・アーキテクチャ」と呼びます。逆に、部品のすり合わせや組み合わせの可能性が一企業内で閉じている場合を「クローズド・アーキテクチャ」と呼びます。インテグラル型はその一種です。