20世紀最高のピアニストは本番前に歩けなかった
一流企業の社長も取材のときに至近距離で見ると、手足はガクガク震え、声も震えています。でも社長ですから、どんなに人前で話すことが苦手で緊張しようとも、話さなくてはならない立場なのです。
音楽家も同じです。ある音楽家は、楽屋で「緊張でおなかが痛い」と言って、まったく落ち着きがありません。リハーサルも、出来はいまひとつ。大丈夫かなとひとごとながら心配していました。ところが本番で舞台に出た瞬間、リハーサルとはまったく別次元の素晴らしい演奏をしたのです。数年後、その音楽家は、世界3大コンクールの一つで優勝しました。
巨匠と言われる世界的な演奏家は、みな超あがり症です。ピアニストのマルタ・アルゲリッチも、テノール歌手のマリオ・デル・モナコも、指揮者のカルロス・クライバーも、本番前に極度の緊張で不安になってコンサートをキャンセルしてしまうこともしばしば。20世紀最高のピアニストと言われるスヴャトスラフ・リヒテルは、本番前に緊張で歩けなくなり、指揮者が支えないと舞台に出られないほどでした。そんな彼らは、本番ではまさに鳥肌が立つような演奏をします。
緊張がなくなることは一生ない
緊張していいんです。
緊張こそ、あなたの才能です。緊張しなくなればプレゼンで人を感動させ、動かせるようになると思っていたら、それは大きな誤解です。緊張はあなたのDNAにしっかり刻み込まれたものなので、一生なくなることはありません。私は、皆さんに緊張という宝を活かす方法を知って、1日でも早く力を発揮してほしいと願っています。
緊張克服のために、リラックス法を見つけ出してプレゼンしている方もよく見かけます。
「話し方を変えよう」と話し方の講習に参加したりする方もいます。でも、一度緊張を活かせる体験をすれば、無理にリラックスしようとは考えなくなります。
まずは緊張の存在を認めましょう。後は緊張の取扱説明書通りにやるだけです。
トップ・プレゼン・コンサルタント、ウォンツアンドバリュー 取締役
桐朋学園大学音楽学部演奏学科卒業。極度のあがり症にもかかわらず、演奏家として舞台に立ち続けて苦しむ。演奏会で小学生に「先生、手が震えてたネ」と言われショックを受ける。あるとき緊張を活かし感動を伝えるには「コツ」があることを発見し、人生が好転し始める。その体験から得た学びと技術を、著書『緊張して話せるのは才能である』(宣伝会議)で執筆。経営者の個性や才能を引き出す「トップ・プレゼン・コンサルティング」を開発。経営者やマネージャーを中心に600人以上のプレゼン指導を行っている。また月刊『広報会議』では、2014年から経営者の「プレゼン力診断」を毎号連載中。50社を超える企業トップのプレゼンを辛口診断し続けている。NHK、雑誌「AERA」、「プレジデント」、「プレシャス」、各種ラジオ番組などのメディアでも活動が取り上げられている。その他の著書に『DVD付 リーダーは低い声で話せ』(KADOKAWA /中経出版)。永井千佳オフィシャルサイト Twitter: @nagaichika