緊張の「機嫌」を損ねてはならない

そして緊張はとてもデリケートです。取り扱いに注意が必要です。なかなか自分の思うとおりにならないわがままなものなのです。あなたの心の中にいる赤ちゃんだと思ってください。赤ちゃんは機嫌が悪くなると泣きやみませんよね。あなたがイライラしたりすればそれを敏感に察知して赤ちゃんもぐずり始めます。でも、あなたがやさしく丁寧に扱えば、赤ちゃんは機嫌よくしてくれています。

緊張も同じです。いったん無造作に扱うと、ぷいっとそっぽを向いてしまい、その日は二度と帰ってきません。だから、あなたがやってはいけないことは、緊張の機嫌を損ねないことです。そのために、まずは緊張を取扱説明書通りに扱ってください。そのうち自分なりの方法が分かってきて、細かい部分で取扱説明書の書き換えが必要となってくるかもしれませんが、まずは基本通りにやってみてください。

この二つを行えば、緊張してしんどい本番でも、自分の能力を最大限引き出すことができるようになります。そして、緊張しないで悠々とプレゼンをしている人に勝つことができるのです。緊張を活かす方法が分かれば、人生は好転し始めます。あなたは緊張という才能を授かってこの世に生まれてきていることを知ってください。

大舞台の直後にたたずむ社長の姿

有名な社長さんでも緊張している姿を目にします。

日本を代表する世界的企業を大変革して復活させ大きく名を挙げた某CEOは、プレゼンで、なんと初めてのサックス演奏を披露しました。会議室で猛練習したそうです。でも演奏がうまくいきません。音がひっくり返り、首をかしげています。緊張で硬くなっていることが伝わってきます。

ところがプレゼン後半では一変。最後は腹の底から声を出して会社のビジョンを宣言し、鳥肌が立つような素晴らしいプレゼンを成し遂げました。

そんな大舞台の終了後。一人エレベーターホールの前に立っている社長さんを偶然見かけたのです。

「はぁ~」

誰もいないと思ったのでしょう。肩を落として小さくため息をつき、疲労しきった表情をしていました。私はその社長さんの背中を見て、しばし立ちすくんでしまいました。この社長さんのプレゼンは世界の中でもトップクラス。でも、皆さんと同じように緊張しながら出ていたのです。そして自分のリミッターを外すことで、一世一代のイベントを務めあげたのです。