「緊張」と「リラックス」は両立しない

不安になりビデオを見ると、うまくいっていると思っていたところが実際はうまくいっていません。「あんなに憧れていた緊張しない状態なのに、緊張しない本番はうまくいかない。それどころかお客さんの反応が悪い。なぜなんだろう?」と不思議に思い始めました。

そんなとき、医学的な緊張のメカニズムを知り、脳天に雷が落ちたような衝撃を受けました。

私たちの身体は、脳が命令しなくても心臓は動くし食事も消化されます。これは自律神経のおかげです。

この自律神経には、大きく分けて「交感神経」と「副交感神経」の二つがあります。交感神経は、緊張したり興奮したりすると活発になり、脈が速くなります。副交感神経は、リラックスすると活発になり、脈が遅くなります。

交感神経と副交感神経は、同時に活発になることはありません。だから人間の身体は、「緊張しながら、リラックスする」ということはできない構造になっているのです。

プレゼンでの緊張は「交感神経」のせい

私たちがプレゼンで緊張するのは、交感神経が活発になっているからです。

「今から勝負!」と思った瞬間、人間は身体から交感神経を活発にさせるアドレナリンというホルモンが出て、さらに「覚醒のホルモン」ノルアドレナリンも出て、周囲に意識を張り巡らします。

狩りをしていた太古の人類にとって、何よりも必要なことは、獣や敵と戦って生き延びることでした。「緊張状態」は交感神経を活性化させて、戦う際に必要なエネルギーを集中させる反応なのです。たとえば獣が現れて緊張するとき、脳が命令しなくても勝手にアドレナリンが出て交感神経が活発になり、脈を速めて身体全体に大量に血液を送り込み、後回しにしてもいい消化活動を停止して、エネルギーを重要な器官に集め、血管を収縮し、攻撃されたときの出血量を抑えます。

また緊張状態になると、脳波は緊張を示すβ波に変わり、意識は分散し、雑多なことが頭に浮かび、一つの考えに集中できなくなります。実はこれも、覚醒のホルモン・ノルアドレナリンが出ることで、あらゆる方向からの敵の攻撃を感知し対応するためです。