今、ロスジェネの平均年齢は「42歳」であり、平均寿命の伸長や定年延長の議論が始まっていることを踏まえると、ロスジェネは後半の人生を活き活きと過ごすために、新たなスキルやノウハウを身につけはじめようとするのに、まさに適した年齢といえる。パラレルワークでは、一つの会社の中では得ることの難しい異なる知見や経験、人的なネットワークを獲得できる。

第三は、新たな中堅リーダーとしての活躍の期待である。現在、ロスジェネは企業の中では会社を支える中堅層であり、マネジャー層へ移行している過程でもある。右肩上がりの量的な拡大を志向する組織と、規模の拡大よりもむしろ業務の質や効率性の向上を志向する組織ではマネジメントのありかたは異なるはずである。社外の知見を取り込みながらビジネスのかたちを変えていく、いわゆる「オープン・イノベーション」のような経営手法も重要となってきている。

バブル世代以前の旧来型の価値観を持ったマネジャーは、過去の成功体験に引きずられ、自らを改革するのは難しい面がある。そこで、マネジャー層となったロスジェネが、パラレルワークを通じて社外の知見や経験を取り込み、社内マネジメントに活かすことが望まれる。

パラレルワーク主流時代に向けた環境整備を

ロスジェネ個人として、今、求められているのはキャリアの「棚卸し」と“とりあえず”の「デザイン」である。ここでは“とりあえず”というのがミソである。人生100年時代のキャリアは相当に長い。すべてを見通してキャリアデザインを行える人などいない。多様な人との出会いや経験を通じて、めざすキャリアは変わるものと考え、当面の目標を設定するのである。

一方、副業を許可していない会社はそれを可能にするとともに、可能な副業の対象業務を広げたり(「雇用者」としての就業を認めるなど)、活動時間の制約を緩めたり(就業時間中の活動も可能にするなど)することが望まれる。一口に副業を許容するといってもさまざまなバリエーションがある。副業解禁というより、「専業禁止」を方針として掲げるエンファクトリー、イノベーションの創出につなげる狙いを明確化しているソフトバンク、他社への就業も可能な新生銀行、就業時間内に月20時間内に限り副業を認めるフューチャースピリッツなどである。他社の制度を参考にしながら、自社にあった副業のかたちを考えていくべきだろう。

企業にとっては、パラレルワーカーを有力な社外人材として巻き込むという視点も大切である。これまでの企業は正社員のみを「中核人材」として位置づける傾向がみられるが、これからは例えば他社に勤務するパラレルワーカーを集めて、自社の新たなコアコンピタンスを創り上げる、といった発想もありうるのではないだろうか。

一般に「働き方改革」といえば、同一労働同一賃金、女性や高齢者の労働参画、高度プロフェッショナル人材など、すべて企業に勤める社員が、その会社の中でのみ活躍することを前提にしている。しかし、パラレルワークが主流になり、会社と会社の間の境界線が曖昧になる時代が訪れた場合は、会社のマネジメントも働き方もこれまでとは全く異なったものになろう。

人生100年時代には一つの会社に一生勤め続けることも、一つの組織にのみ所属し、一つの肩書しかもたない働き方もおそらくまれなケースになる。その意味では、近年注目されつつある、同じ時期に複数の「仕事」を持つパラレルワークという働き方は、むしろ標準的なワークスタイルになるかもしれない。その時、雇用制度の抜本的な見直しと新たな「働き方改革」が求められるはずである。

“パラレルワーク主流時代”をけん引する世代として、筆者はロスジェネに強く期待を持っている。

奥村 隆一(おくむら・りゅういち)
三菱総合研究所 シニアリサーチプロフェッショナル
早稲田大学大学院理工学研究科建設工学専攻、修士課程修了。1994年4月、三菱総合研究所入社。一級建築士。東京都市大学講師(非常勤)。プラチナ社会センターに所属し、少子高齢問題、雇用・労働問題、地方自治政策に関わる研究を行う。著書に『仕事が速い人は図で考える』(KADOKAWA)、『考えをまとめる・伝える図解の技術』(日本経済新聞出版社)、『図解 人口減少経済早わかり』(中経出版)、などがある。
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