若い世代ほど副業を希望している
2人のロスジェネの働き方は一般に「副業」ないし「兼業」と呼ばれている。冒頭に示したものと同じ調査(mif)の中に副業に対する意向を尋ねた設問がある。これによると、ロスジェネあたりから副業を希望する就業者の割合が高まっているのがわかる(図表2)。
働き方改革実現会議が2017年3月に決定した「働き方改革実行計画」の中で「副業・兼業の推進」を掲げているのは、「新たな技術の開発、オープンイノベーションや起業の手段、そして第2の人生の準備として有効」(同計画)なためである。政府は、本業の収入を補完する目的で行う「守りの副業」ではなく、就業者個人が主体的に能力を高めるための手法の一つとして、すなわち「攻めの副業」を普及・浸透させようとしていることがうかがえる。
なお、副業や兼業に近い概念で、とくにキャリア形成の観点から複数の活動を行うことは「パラレルキャリア」と呼ばれる。「副」や「兼」には、主従関係が読み取れるが、副業規制がさらに緩まれば、より活動時間や活動内容が拡がり、どちらも主業となるような働き方が主流になる可能性もある。そこで、このような働き方の今後の発展可能性を期待し、ここでは「パラレルワーク」と呼ぶことにしたい。
パラレルワークがロスジェネに向いている理由
この新たな働き方であるパラレルワークはロスジェネに向いている、と筆者は考えている。
それはなぜか。
第一に、経済社会にかかる価値観転換の時期に、社会人となった最初の世代である点があげられる。バブル世代以前は、一時期の経済低迷期を経験はしつつも、全体としては右肩上がりの経済成長の中で仕事を続けてきた。そのため、「経済は成長するもの」「企業の規模は拡大することが望ましい」という価値観がたっぷりと刷り込まれている。
しかし、2000年代初頭にわが国は、世界のどの国も経験したことのない「人口減少社会」に突入し、国内消費市場は縮小こそすれ、拡大は望めない経済環境に置かれている。明治維新以降続いてきた「人口増加社会」の発想の多くはもはや役に立たない。この事実を頭では理解していても、組織の規模も売り上げも拡大を続けるのが企業としての当たり前の姿である、との発想からなかなか抜け出せず、「拡大しない組織」を前向きに受け止められていないのがバブル世代以前のビジネスパーソンではないだろうか。
一方、ロスジェネの場合、就職時期にはすでにバブル経済は崩壊しており、浮かれたバブル期の成功体験はない。だからこそ、冷静かつ客観的に経済社会の現実を踏まえた発想や行動をとりやすいのである。パラレルワークの普及と浸透は、古いタイプの働き方の価値観に疑義を呈し、これを相対化する力を持つ。ロスジェネ以降のビジネスパーソンの新しい仕事や組織に対する価値観と親和性が高いと思われる。
組織に忠誠をつくし、組織を大きくすることに腐心し、ピラミッドを登っていくという人口増加社会におけるビジネスパーソンが志向する「組織」と「人」との関係よりも、もっと緩やかな関係を創っていくことが今後求められるとしたら、「ロスジェネ」に、その先導者としての役割を期待したい。
第二に、長い職業人生の中で、スキルやノウハウを再インストールするのに適した世代である点があげられる。精神分析学の創始者フロイトの弟子であるユングは40歳を「人生の正午」と呼んでいる。これは、人生を一日の太陽の運行になぞらえて考え、太陽の上昇から下降への転換点が40歳前後というわけである。発達心理学によると、この転換期を心理的にうまく乗り越えられるかどうかが、後半の人生の明暗を分ける、といわれている。