地方に移住したロスジェネの体験
ロスジェネ・リバイバルに焦点を当てるシリーズの第2回目のテーマは、「ロスジェネは地方創生の起爆剤になる」だ。私は日本社会が活力を取り戻すためには、「地方創生」を推進すべきだと考えている。そして、その推進には、定年後のシニア世代ではなく、働き盛りで人数が多いロスジェネを呼び込むことがいちばんだ。そこで本稿では地方にロスジェネを呼び込むための条件について探ってみたい。
まず、私が知り合ったロスジェネの地方移住体験を紹介しよう。
「仕事を辞める覚悟だったんです」
田中誠(仮名、40歳)さんは、東京でIT企業に就職、奥さん・子ども1人と暮らしていた。自然に囲まれた環境で子育てしたいと常々考えていた田中さんは、出身地の静岡県掛川市へのUターンを検討。転職を考え求人を探すが、内容面でも待遇面でも希望にあう仕事が見つからず、踏み切ることができないでいた。
だが、3年前に父親が怪我をして入院することに。幸い大事には至らずすぐに退院できたものの、一人っ子であった田中さんはこれをきっかけに親の介護を真剣に考えるようになり、Uターンすることを決断。やりがいがない仕事でもいいから転職するしかないと覚悟を決め、社長に事情を話したところ、返ってきたのは想定外の言葉。「お前に辞めてもらっては困る。それなら掛川にオフィスを作ろう」。その後、会社は掛川事務所を開設してくれることになり、やっていた仕事をそのまま掛川ですることになった。
家族で移住した当初は、東京では無縁であった近所づきあいや車がないと生活できない環境に戸惑ったが、移住から2年たった今、海にも山にもほど近く自然に囲まれた掛川での生活を家族全員満足していると言う。田中さんは最近サーフィンをはじめ、週末や通勤前に市内の海岸に通っているそうだ。
仕事面では、田中さんも商工会議所主催の交流会などを通じ地域の経営者たちとも交流している。田中さんにとって意外な発見だったのは、地域の経営者から聞く悩みの多くは、自身や会社のスキルで解決できるものだったことだ。
「社長の本当の狙いはそこにあったのでしょうね」。そう語る田中さんは、東京のクライアントの仕事をこなしながら、地域ビジネスを構想中。自分たちのスキルを活かすことで、ビジネスを通じて地元に貢献していきたいと思っている。
移住する上で諦めようとしていた仕事面でも、東京にいる時よりもさらにやりがいを感じるようになり、家庭も趣味も充実した生活を送っているとのことである。
一昔前の移住は引退後のセカンドライフが話題の中心であったが、昨今、現役世代の移住が注目されている。
三菱総研の調査(※1)によると、3大都市圏に居住する25歳~75歳のうち、20.5%の人が移住意向を持っており、特に30代以下、40代の男性はそれぞれ25.1%、25.3%と比較的高い(図表1)。
※1 三菱総合研究所『「人口移動効果を踏まえた自治体の福祉政策展開」に関する調査研究』(平成26年3月)