これから「副業」は標準的な働き方になるのだろうか。三菱総研の奥村隆一氏は「若い人ほど働き方が多様になっている。現在の30代後半から40代前半の『ロスジェネ』からは、パラレルワークが主流になるはずだ」と指摘する――。

ロスジェネ前後から日本人の働き方は変化

今、日本人の働き方は変わり始めている。三菱総合研究所の生活者意識調査(mif<※1>)によると、世代が若いほど、多様な勤務形態の経験を持つ割合は高い(図表1)。そうした変化は「ロスジェネ」(現在の30代後半から40代前半)から始まっている。ロスジェネは不況期に就職活動を余儀なくされた経験から安定志向である一方で、これまでとは異なる働き方を選びはじめている世代といえる。本稿ではロスジェネにおいて、一人の人間が複数の職をこなす「パラレルワーク」の重要度が増している事実を論じる。

副業・兼業を進めているロスジェネの事例は多数あるが、ここでは2人の事例<※2>を紹介したい。

ロート製薬に勤務している市橋健さんはアグリ・ファーム事業部で関連会社の食品工場の衛生管理を指導している。一方、ビールの卸・小売・通信販売事業を手掛ける会社「ゴールデンラビットビール」の代表でもある。なお、ロート製薬は2016年に副業を解禁し、副業ブームの先駆けとなった企業の1社である。

市橋さんは「現在の生活の場である奈良に貢献したい」との思いから、地ビール販売のビジネスを発案し、創業した。本業で培った液剤の製造・管理のノウハウが存分に活かされている。会社の理解と協力の下で成り立っている面も少なくないが、「二足のわらじ」のどちらでも充実した日々を送っている。

サイボウズ株式会社の永岡恵美子さんは、本業では社長室に所属し、地域クラウドプロデューサーとして、起業家支援と地域活性化を掛け合わせた全国展開のイベント「地域クラウド交流会(ちいクラ)」の企画・運営を行うかたわら、副業では第一勧業信用組合の未来開発部創業支援室に所属し、アドバイザーとして創業支援全般にわたるサポート・アドバイスを行っている。第一勧業信用組合の理事長から転職の誘いを受けたのがきっかけで、逆に副業での支援を提案したところ、受け入れてもらったという。

本人が培ってきたスキルを本業以外の場でも役立てられることや、全く異なる業界に同時に所属することで通常の2倍の学びが得られることに充実感を感じているようだ。

※1 三菱総研が運営するMarket Inteligence&Forcast(生活者市場予測システム)の略称。2011年から毎年6月に設問総数約2000問、20歳から69歳を対象として日本の縮図となるような30000人を対象に実施している生活者調査。
※2 経済産業省が2017年5月31日に公表した「兼業・副業を通じた創業・新事業創出事例集」の中から取り上げた。