経験豊富な社長でも「本番で緊張する」

緊張する人は、一生懸命勉強したときほど、逆に試験で緊張するようになります。勉強した量や質に対して、自分の期待値が上がりすぎると、緊張は激しくなります。勉強すればするほど、自分の中に「自分に期待する聴衆」が増えていき、「期待に応えなければ」とプレッシャーをかけるのです。

こういう人は、勉強しなければ、緊張が消えます。私はまったく勉強しなかったときはテストで緊張もしませんでした。しかし当たり前ですが、勉強しなければ成績は悪くなります。緊張をなくそうとして勉強しないのは、本末転倒ですよね。

「緊張して話せないのは、練習が足りないから」という言葉に騙されないでください。

人前で話すことには慣れているはずの経験豊富な40代、50代の社長さんや部長さんが「本番で緊張する」と悩まれている様子を、私はたくさん見てきました。年齢が上がり、さらに職位も上がれば、失敗できない立場になるために会社からの期待も大きくなり、プレッシャーはどんどん大きくなるのです。人前でガタガタ震えている姿はできれば見せたくないし、そんな姿を見せてしまったら次の日から社員や部下への説得力も半減してしまうと思うのも当たり前かもしれません。

「緊張している」を認めるのが第一歩

経験を積み重ねれば積み重ねるほど、緊張は激しくなります。

子供がほとんど緊張しないのは、経験がないからです。私は以前、ピアニストとして小さな子供にピアノのレッスンをしていました。発表会になると、幼稚園生や小学校低学年の子供たちは、緊張もせずにケロリとして舞台から帰ってきます。それが、年齢が上がればだんだん緊張するようになり、練習と本番の出来が変化するようになってくるのです。音大卒業生の演奏会でも、緊張が激しいのは新卒の20代より、40代50代の先輩方でした。

でもがっかりする必要はまったくありません。先ほどお伝えしたように、緊張は、人の心を揺さぶり、行動を変えることができる大事なものだからです。

私のコンサルティングのお客様でなかなか上達しない方には、共通点があります。それは「私、緊張しません」と緊張を否定されることです。リーダーの立場まで上りつめる方というのは、責任感の強い方が多いものです。世間では「緊張するのは弱虫」と思われているので、「緊張するようでは、リーダーは務まらない」と考えて、緊張を認めたがらないのです。でも緊張を認めなければ、緊張はあなたの味方にはなりません。

まず「緊張している」と認めなければ、緊張は活かせません。「私は緊張する。だから良いプレゼンができるんだ」くらいの開き直りと覚悟が必要なのです。

この連載では、緊張というあなたの才能を活かして、人を動かすためのプレゼンをする方法を紹介していきます。どうぞよろしくお願いいたします。

永井 千佳(ながい・ちか)
トップ・プレゼン・コンサルタント、ウォンツアンドバリュー 取締役
桐朋学園大学音楽学部演奏学科卒業。極度のあがり症にもかかわらず、演奏家として舞台に立ち続けて苦しむ。演奏会で小学生に「先生、手が震えてたネ」と言われショックを受ける。あるとき緊張を活かし感動を伝えるには「コツ」があることを発見し、人生が好転し始める。その体験から得た学びと技術を、著書『緊張して話せるのは才能である』(宣伝会議)で執筆。経営者の個性や才能を引き出す「トップ・プレゼン・コンサルティング」を開発。経営者やマネージャーを中心に600人以上のプレゼン指導を行っている。 また月刊『広報会議』では、2014年から経営者の「プレゼン力診断」を毎号連載中。50社を超える企業トップのプレゼンを辛口診断し続けている。NHK、雑誌「AERA」、「プレジデント」、「プレシャス」、各種ラジオ番組などのメディアでも活動が取り上げられている。その他の著書に『DVD付 リーダーは低い声で話せ』(KADOKAWA /中経出版)。永井千佳オフィシャルサイト Twitter:@nagaichika
(写真=AFP/時事通信フォト)
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