緊張が「悪者」になっている

確かに緊張すると、「身体が硬くなる」「手足が震える」「手が冷たくなる」「頭に血が昇る」「しゃべりにくくなる」「集中力が散漫になる」「呼吸が苦しくなる」「心臓がドキドキする」「喉がカラカラになる」などの症状が出てしんどいものです。

ですから誰も「緊張は良いものだから、どんどん緊張しなさい」とは言いません。

緊張するとテストで失敗したり、スポーツで良い成績が出せなかったりすると思われているので、学校では、「緊張しないようにリラックスしなさい」と教えます。「緊張して受験やオーディションに失敗しては大変」と本気で心配してくれているのです。

緊張は「悪者扱い」なのです。

オリンピックのテレビ番組でも、メダル期待の選手に解説者は「4年に1度の大舞台ですし緊張しているようですね」「リラックス。集中です」とコメントします。また、メダルをとった選手もインタビューでは、大抵「あまり緊張しなかったですね」「リラックスして楽しめました」と言います。

緊張は悪いもの、避けるべきもの、ということは、今や常識なのです。

私もある時期まではそう思っていました。でもその考えは大間違いだったのです。

良いプレゼンをする社長の共通点

私は雑誌の企画で、企業の社長さんのプレゼンを取材してコメントする「プレゼン力診断」という記事を毎月執筆しています。すでに50社の企業を診断してきました。そこで、あることに気がついたのです。

会社の業績が悪くても、メディアで批判されてピンチの状態でも、社長さんが良いプレゼンをすると、その後に株価が上がったり、会社の業績が良くなったりしていくのです。私はいつも先入観なしでプレゼンだけで診断しているのですが、繰り返しこのようなことが起こるのを経験してきました。

このような良いプレゼンをする社長さんたちには、一つの共通点があります。

実は皆さんとても緊張しているのです。

人前で手や足が震えていたり、身体が硬直していたり、早口になったり、人前で話すのが苦手だったりしているのです。でもそんな姿を見ても、「大企業の社長ともあろう人物が、こんなに緊張してダメだなぁ」とは微塵も感じません。むしろそんな社長さんたちの話を聞いていると、強い想いが伝わってきて、なぜか心が揺さぶられるからです。

テニスの大阪なおみ選手も、まさに同じです。四大大会連覇と世界ランキング1位を達成した大坂選手は、スピーチでは極度に緊張してしまうことでも知られています。

2018年3月のBNPパリバ・オープンでの優勝スピーチでは、スポンサーへの謝辞も忘れそうになり、「史上最悪の優勝スピーチ」と自嘲したほどでした。

ところがそのスピーチに対して、会場からは拍手が起きました。確かに内容はグダグダで、スピーチのプロからすれば、拙いと言われるかもしれません。でも大坂選手のピュアな緊張が伝わったからこそ、観客は心を打たれたのです。