本を読むことで「三無」に陥らず

同書が導き出したもう1つの重要な法則が、「基本理念がしっかりしている」ということです。私は人間に人徳が必要なように、「企業にも“社徳”が必要だ」と考えています。社徳がなければ、優れた人材が自然と集まるような企業にはなりません。そのために企業は「利益の追求」と「社会への貢献」といった一見、矛盾した行為を両立させなければならないのです。

SBIホールディングス 代表取締役社長 北尾吉孝氏

同書でも「ビジョナリー カンパニーになるには『ORの抑圧』ではなく、『ANDの才能』が必要だ」と説きます。つまり、「利益か、はたまた社会的貢献かを選択する」のではなく、「利益を増やしながら、社会にも貢献できる」ビジネスモデルを構築するのが、ビジョナリー カンパニーだというのです。それゆえわが社は、先の経営理念のなかに「正しい倫理的価値観を持つ」「社会的責任を全うする」という考え方も盛り込んでいるわけです。

私は『ビジョナリー カンパニー』を味読しながら、古今東西の名著との共通点を見出し、「企業の成功条件とは万古不易なもの」であると確信しました。たとえばこの「ANDの才能」は、ドイツの哲学者であるヘーゲルの弁証法の「正反合の理論」と相通じます。ヘーゲルは、ある概念とそれに対立する概念とがぶつかり合って「止揚」されることで、物事が進化すると考えました。同様に、利益(私益)とともに、社会的貢献(公益)を追求することで、企業も発展を遂げるわけです。

また、『ビジョナリー カンパニー』のエッセンスは、中国の古典にちりばめられた金言や格言ともオーバーラップしています。『春秋左氏伝』には、「義は利の本なり、利は義の和なり」という言葉があります。「社会正義が根本にあれば、利益は自ずとついてくる」といった意味で、利益の追求と社会的貢献は矛盾しないことを示しており、「ANDの才能」と同じことなのです。

『大学』に、「湯の盤の銘に曰く、苟(まこと)に日に新たに、日日に新たに、また日に新たなり」という言葉があります。白虎隊で有名な会津藩校の校名にもなった「日新」の銘は、殷を建国した湯王が洗面の器に刻み、毎日自戒したフレーズだといわれ、「絶えず自己変革する」ことの重要性を示しています。これは、『ビジョナリー カンパニー』で述べられているように、常にビジョンを変化させ、発展させるべき企業の姿勢にも合致します。