雑誌「プレジデント」(2018年10月15日号)では特集「ビジネス本総選挙」にて、仕事に役立つ100冊を選出した。このうちベスト10冊を順位ごとに紹介する。今回は第6位の『ビジョナリー カンパニー』。解説者はSBIホールディングスの北尾吉孝社長――。

再読することで、血肉となる

私は長年、数多くの書物に親しんできました。そのなかにはピーター・F・ドラッカーの著作をはじめ、さまざまなビジネス関連の書籍も含まれています。とりわけ実務でも役立ったのが、『ビジョナリー カンパニー』です。著者は大企業のトップに対する調査から、先見性があって優れた業績を上げ、かつ社会から評価される企業、すなわち「ビジョナリー カンパニー」となるための条件を導き出しており、経営者としての私の考え方や生き方に大きな影響を与えてくれ、今回の上位へのランクインも当然のことと思います。

同書が海外でベストセラーになっていたのを知っていた私は、1995年に日本語版の初版が出ると、すぐに買い求め、味読しました。原文も読みましたが、目から鱗が落ちるような思いの連続でした。また、ちょうど野村證券からソフトバンクに移った時期で、足元が固まっていなかったソフトバンクの進むべき方向の策定などに、同書の内容は大いに活かせました。

良書と呼ばれる本は、何度も読み返したくなるもので、私も『ビジョナリー カンパニー』を折に触れ読み直してきました。99年にSBIホールディングスを立ち上げた際も、経営理念づくりの参考にしようと再読しました。そうするなかで同書は、経営者としての私の血となり、肉となりました。

同書が画期的なのは、100年、200年と続くビジョナリー カンパニーと、そうでない企業を対比して、それらの違いを浮き彫りにしているところです。そこから導き出された重要な法則の1つが、「企業の経営理念は理論や外部環境に左右されないもので、ビジョンは経営環境に応じて変化させ、発展させるもの」ということです。

わが社も長期に継続して取り組むべき企業の目標として、「SBIグループの5つの経営理念」を掲げています。すなわち、「金融イノベーターたれ」「新産業クリエーターを目指す」「セルフエボリューションの継続」などの5つの考え方です。その一方で、組織の望ましい中期的な将来像を示すビジョンは絶えず見直しを図り、いまは「連結税引前利益は、1~2年後に1000億円超の達成を目指す」「ROEは10%以上の水準を維持」などの5つの具体的な姿を描いています。