中国は世界最大の「知財」の侵害国家

米国の貿易黒字はサービス業によってもたらされている。特に近年では旅行業や金融業だけでなく、徐々に知的財産権の使用料による収益が増加しつつある。輸入による巨額の貿易赤字と比べれば知的財産権の使用料による貿易黒字は相対的に小さいが、高度な技術によって支えられた産業は米国に高い賃金と安定的な雇用を中長期的に創出・拡大する貴重な財産となっている。

時事通信フォト=写真

米国は輸出戦略の一環として知的財産権をジョージ・ブッシュ政権時代にPRO-IP法という超党派の法律で位置付けている。同輸出戦略はIPECという米国全体の知財保護・輸出拡大の担当者によって遂行されている。IPECは米国において省庁をまたがる知財戦略をまとめあげる権限を持つ。この知財輸出政策はバラク・オバマ政権にも引き継がれており、現政権にとっても最重要政策の1つとして捉えられている。

知財が通商政策上重要な位置付けを持つ現代社会において、中国は世界最大の知財の侵害国家であり、知財の使用料で利益を得ている米国が中国の理不尽な制度を是正することを求めるのは当然である。

むしろ、トランプ政権による中国への要求は、目に見えるモノによる単純な貿易問題ではなく、目には見えない高度な技術をやり取りする現代の通商関係の基礎を整備するためのものと言えるだろう。

オバマ政権のようにTPPなどで包囲する形によって中国に知財制度の是正を働きかけようとした立場からは、トランプ政権の2国間交渉によって解決を迫る姿勢はやや強引なものに見える。しかし、米国というスーパーパワーが本気を出さなければ中国側は歯牙にもかけないことも事実だろう。

中国はトランプの関税政策について自由貿易を破壊するものとして批判しているが、日本人はトランプの関税政策のすべてを保護主義的なものと切って捨てる雑な議論をやめるべきだ。トランプ政権の関税政策に対して一つ一つ詳細に検討し、その意図を理解して対処することが重要である。