誤解【5】
「選挙に強い」
トランプの支持率は大統領選挙時から決して高いものではなかった。トランプは既存の共和党連邦議員らからの政治的支持を得ていたわけではなく、共和党にとってトランプは外様の異分子にしかすぎなかった。
ヒラリーに勝利できたのは、ヒラリーのセレブ臭がとても嫌われていたこと、共和党の約半数を占める保守派(減税・規制廃止・宗教的道徳観の堅持を求める人々)が支援したことにある。リベラルなニューヨーク生まれの富豪で離婚歴があるトランプは保守派とは本来相容れないが、敵の敵は味方。大統領選終盤で大いに活躍したが、共和党保守派に多大な借りをつくってしまい、政権発足後も同派閥への依存を続けざるをえない状況にある。
現在のトランプ政権の閣僚は保守派からの入閣者が大半を占めている。17年の政権発足以来、トランプの政策は、オバマケア見直し、減税政策、パリ協定離脱、エルサレムの首都認定など保守派の意向に沿ったもので、トランプはそういった政策を実現する保守派の政治的な代弁者にすぎない。
一方で共和党には保守派と対立する穏健派という勢力もいる。ブッシュやミット・ロムニーなどの有力政治家を中心とする勢力で、民主党とも妥協できる柔軟な姿勢を示すこともあり、トランプとは距離を置く派閥だ。
トランプは穏健派の連邦議員らにも17年末から働きかけつつあるが、奏功していない。穏健派は保守派と違ってトランプに是々非々の態度を取っており、むしろ隙あらばトランプの寝首を掻くことを狙っている。
メディア上で独裁者のように描かれるトランプの実情は実際の政治構造を踏まえると大きく異なるものに見えるだろう。しかし実際はトランプ政権は崩れやすい砂上の楼閣。共和党のうち半分(保守派)しか支持を得ていないトランプの地位は極めて不安定だ。
(写真=時事通信フォト、AFLO)