誤解【4】
「安倍政権とは蜜月関係」

ワシントンポストが18年6月の日米首脳会談時にトランプが「真珠湾攻撃を忘れていない」と発言したと報じたことにより、蜜月関係にあると思われてきたトランプ・安倍晋三総理の関係が実は貿易問題を通じて険悪になりつつあるのでは、という見方が生じた。

一方、安倍政権や政権寄りのメディアなどによると、発言時期・文脈はポスト紙の報道とは異なるものであり、指摘されたようなやり取りは存在しないとされている。むしろ日本の過去の闘志を称えたニュアンスだったかのような印象すらも受けた。

時事通信フォト=写真

筆者はいずれの内容が真実であるかについては知りうる立場にない。しかし、代わりにすでにホワイトハウスHP上に公開されている18年6月の日米首脳会談の共同記者会見の内容を確認することで同会談の舞台裏を推量したい。

この会談は米朝首脳会談の直前だったことから、会見で両国首脳は当然、北朝鮮問題に言及していた。両国首脳の関係は友好的な雰囲気であったようにも思えたが、会見で語られた内容には日米首脳間で決定的な相違点が1つある。トランプが日米間の貿易問題について具体的に言及しているのに対し、安倍は一切貿易問題について触れていない。会見の内容を確認しながら、両者のコントラストが不自然だと筆者は感じていた。

北朝鮮問題で露骨に恩を着せるような態度

会見内容から察するに、トランプにとって日本と話し合うべき問題に通商交渉が常に含まれるのに対し、日本側もそれは理解しているものの、当日の首脳会談の話題のテーマとしたくなかったことがうかがえる。

日本側は会談の話題が北朝鮮問題だったと強調するが、トランプの関心事は日本側と別で、日本側に貿易交渉で圧力をかけたことはほぼ間違いない。トランプは拉致問題を安倍が個人的にこだわっている項目として言及し、安倍に対して北朝鮮問題で露骨に恩を着せるような態度を取っていた。代わりに通商交渉の進展や米国への投資など、米国側が共同記者会見で言及した内容について、日本が米国から対応を迫られていることは明白だった。

真偽はともかく、日本側が思うようにトランプが「真珠湾攻撃を忘れていない」と日本側の過去の闘志を称賛したなら、その趣旨は「もっと武器を買ってほしい」と示唆していると理解するべきだ。

トランプは「日本の指導者との良好な関係は彼らがいくら支払わねばならないかを伝えれば、すぐに終わることになるだろう」というセリフをウォール・ストリートジャーナルの電話取材(18年9月上旬)で述べた。18年9月下旬開催予定の日米首脳会談(とゴルフ)を前にして、前回の共同記者会見時と同様にトランプは対日貿易赤字を気にしていることは明らか。安倍との蜜月関係はあったとしても、通商交渉の仕事は友情とは別物である。実際には貿易赤字額の大きい地域・国から順番に“トランプ裁判”にかけられているにすぎない。

トランプが日本の市場開放に対するカードとして使用している自動車および自動車部品の関税引き上げ調査は、大統領令・大統領覚書ではなく口頭で商務省に指示されたものであり、他の関税政策と比べ本気度は高くないだろう。しかし、日本が“蜜月関係”にあぐらをかき、トランプ側の対応を甘く見た場合、主にハイテク技術を活用した自動車などの関税が引き上げられる可能性が存在している。