2017年1月にドナルド・トランプが米国の大統領に就任してから、はや2年。選挙戦開始時は、多くのメディアは共和党予備選の泡沫候補として扱ってきたが、あれよあれよと勝ち進み、最終的には多くの世論調査の結果を裏切り第45代米国大統領の座を手に入れた。
就任当初もすぐに弾劾されるとの見方が多かった。しかし、トランプは「米国医療保険制度改革法(オバマケア)の撤廃」「TPPからの正式離脱」「メキシコ国境の壁建設」「中東・アフリカ7カ国からの入国禁止」など数々の大統領令への署名に打って出た。
移民の国である米国で建国の理念と逆行するような大統領令や、これまでの大統領には見られなかった強引な政治手法に、トランプは就任以降、常にメディアや識者から批判を浴びせられ続けている。だが、それでもトランプは今も健在だ。
そこには、多くのメディアや日本人、そして米国民すら誤解しているトランプの真実があるようだ。米首都ワシントンに拠点を持ち、共和党に幅広い人脈を持つ、早稲田大学招聘研究員の渡瀬裕哉氏に解説してもらう。なお、文中の敬称は省略する。
誤解【1】
「世界経済の破壊者」
現在、米中貿易戦争が激しさを増しつつあるが、トランプは巷で喧伝されているように「世界経済」「自由貿易」の破壊者なのであろうか。また、なぜ共和党はトランプの貿易戦争を容認しているのであろうか。
まずトランプの関税政策、特に対中国の貿易戦争は、必ずしも競争力がある外国の製造業から自国産業を守る保護主義的な意図を持ったものとは言えない。
トランプの関税政策は1930年代に米国で大規模に関税が導入されたスムート・ホーリー法になぞらえて語られることも多いが、eメールもない時代と現代社会での出来事を同一視して比べること自体がナンセンスだ。
むしろ、トランプ政権の狙いは自国の産業保護ではなく、中国の市場環境の整備を求める半ば内政干渉のような要求にある。関税を賦課する目的として、トランプ政権は、中国政府に対して強制的な技術移転制度をはじめとした知的財産に関する取り扱いの是正など、中国の国内制度の変更を求めている。
対中目的の関税に関する議論が、「中国製造2025」と呼ばれる産業政策で補助金の対象となる産業分野から、広範で大規模な輸入品への課税に広がった現段階でも、要求内容は変わっていない。