稲盛和夫氏が名誉会長を務める京セラの社是は「敬天愛人」
不祥事企業ではないが、得度を受け、仏門を叩いた稲盛和夫氏が名誉会長を務める京セラの社是は「敬天愛人」である。敬天愛人の説明として、
としている。京セラの社是を見ると、ほとんどお経に書かれていること、そのままである。
社是の歴史をさかのぼれば、創業1440年、世界最古の企業として知られる寺社建設業金剛組の「職家心得之事」(江戸時代中期制定)が古い。そこには、
一.憐れみの心をかけろ
一.争ってはならない
一.人を軽んじて威張ってはならない
一.誰にでも丁寧に接しなさい
一.入札は廉価で正直な見積書を提出せよ
一.家名を大切に相続し、仏神に祈る信心を持て
などの16カ条が記されている。
300年ほど前に、今でもそっくりそのまま使える内容の社是がつくられていたのは、驚きである。同社の社是の冒頭には、「神仏儒の三教の考えをよく考えよ」とも書かれている。
ゴーンは「仏の真理を理解しようとせず、迷走した」
社是のルーツは、仏教の教えそのものだと言ってもよい。
ゴーン氏や不祥事企業の経営者は、「不覚を取った」のだろう。この「不覚」も仏教用語。「仏の真理を理解しようとせず、迷走してしまう」ことを指す。
しかし、不覚をとった者にたいして、仏教は寛容である。常に「懺悔」の機会が与えられている。キリスト教でも懺悔はあるが、仏教では「さんげ」と読む。
私のいる京都では大晦日、「除夜の鐘」があちこちから聞こえてくる。自坊のある嵯峨野にいると、複数の寺院からの鐘の音が鳴り響き、実に風情がある。
除夜の鐘の回数は、煩悩の数と言われる百八つ。さまざまな欲望や執着を鐘の音とともに振り払ってくれる。大晦日は、この1年に犯した罪を懺悔できる絶好の機会なのである。
今こそ、仏教の教えを経営者や社員は学んでほしい。きっとガバナンスやコンプライアンス強化の上でも効果を発揮することだろう。経営にとって必要なことは、仏教がすべて教えてくれるのだから。
浄土宗僧侶/ジャーナリスト
1974年生まれ。成城大学文芸学部卒業。新聞記者、経済誌記者などを経て独立。「現代社会と宗教」をテーマに取材、発信を続ける。著書に『寺院消滅』(日経BP)など。近著に『仏教抹殺 なぜ明治維新は寺院を破壊したのか』(文春新書、12月20日発売)。一般社団法人良いお寺研究会代表理事。