日産のゴーン会長逮捕など、2018年は大企業の不祥事が相次いだ。背景になにがあるのか。京都在住の僧侶兼ジャーナリストの鵜飼秀徳氏は「目先の『利益』を求めるがゆえに、企業が善の心を見失った結果だろう。最近の経営者は『利益を上げられたのは、企業努力の結果』と語ることがあるが、それは大きな錯覚だ」という。ビジネスパーソンが噛みしめるべき「仏教の教え」とは――。

「ゴーンさんは“足る”を知らなかったのでしょう」

2018年もわずか半月ばかりを残すのみとなった。私はこの時期、全国紙の「読者が選ぶ10大ニュース」を自分なりに選ぶのが恒例になっている。的中率は毎年6、7割程度といったところか。長年、新聞・雑誌の記者をやってきたが、なかなか全てを的中させるのは難しい。

しかし、このニュースは間違いなく2018年の「トップ10」に入るだろう。日産のカルロス・ゴーン会長の逮捕劇である。私は経済誌記者であった時代に2度ほどゴーン氏の取材をしているが、それだけに信じられない思いで報道に接した。

テレビニュースを見ていると、ある評論家がこういう言葉を口にしていた。

「因果なものですね」

また、あるキャスターはゴーン氏の役員報酬の有価証券報告書の過少記載にからんで、こう言った。

「ゴーンさんは、足るを知らなかったのでしょう」

「吾唯知足(われただたるをしる)」を知らないゴーン

普通なら聞き流してしまいそうなコメントである。しかし、その言葉は意味深長だ。いずれも仏教の根本的な教えであるからだ。

まず、「因果」について。簡単に言えば、「すべての結果には、原因がある」ということだ。たとえば、善い行いをすれば、善い結果が得られる。他方、悪い行いをすれば、悪いことが起こる。ゴーン氏逮捕という負の結果は、負の積み重ねによって招かれたものだろう。これを「因果応報」ともいう。

ちなみに仏教の始祖であるお釈迦さまは、人生を苦(結果)ととらえ、その原因を解き明かした人物である。当然のようなことではあるのだが、普段の生活の中で因果を意識して、善い行いを実践することは、実はとても難しい。

次に「足るを知る」について。禅寺の掛け軸などで「吾唯知足(われただたるをしる)」と墨書されたのを見かけることがある。

龍安寺のつくばいに書かれた「吾唯知足」(写真=iStock.com/AG-ChapelHill)